犬と猫の地域包括ケアをめざして――第5回 ファシリテーション記録(2025年12月2日)
今回は、ペットケア領域における プロブレムインタビュー(問題発見) を設計するための
ワークショップを実施しました。
これまでに整理してきた「飼い主の困りごと」や「サービス仮説」をもとに、
どのような場面で、どんな行動や感情が生まれているのかを立体的に整理し、
次回以降のヒアリング設計の骨格をつくる回となりました。
■ セッション概要
日時:2025年12月2日(火)10:30〜12:30
テーマ:プロブレムインタビュー設計ワークショップ
目的:
飼い主が困る状況を「緊急」「フォロー」「後悔」の3段階で整理し、
次回の詳細インタビューに向けた質問項目を作成すること。
■ 成果:3つのフレームによる構造化
今回のワークでは、複数の事例や経験を出し合いながら、
飼い主の体験を 3つのフレーム に整理しました。
フレーム①:往診が必要になる段階(緊急・急変時)
想定シーン:
- ペットが突然動かなくなる
- 痙攣する、血を吐く
- 呼吸していない(または判断できない)
- 夜間や休日で、かかりつけ医と連絡がつかない
- 相談チャットやLINE窓口が閉まっている
この段階では、飼い主はパニック状態にあり、冷静な言語化が難しい。
そのため、「質問型」よりも“行動再現+観察”を重視する 方針となりました。
▶ 行動再現の対象例
- 最初に取った動きを再現してもらう(駆け寄る/固まる/電話を取る 等)
- 誰に連絡しようとしたか(家族・動物病院・SNS など)
- 情報を得ようとした方法(検索・紙のメモ・知人への連絡)
- ペットへの接し方(触れた・揺さぶれなかった・タオルをかけた 等)
▶ 観察のポイント
- 行動の順番とその理由
- 判断に迷った瞬間
- 家族とのやり取り
- “わからない”ことで固まる様子
- 「どこに助けを求めようとしたか」の優先順位
▶ 最低限の補助質問
- 「この時、何を思っていましたか?」
- 「なぜ、その行動を選んだと思いますか?」
質問は行動の意味づけに限定し、深掘りしすぎないことを原則としました。
フレーム②:病院通院後のフォロー(慢性疾患・長期治療)
想定シーン:
- 余命を告げられた後の不安
- 慢性腎臓病など、長期的な通院と在宅ケアの併用
- 通院していない日の小さな変化をどう判断していいか分からない
- 「判断の孤独」からくる精神的負担
このフェーズでは、**行動再現よりも「状況・不安・願望の言語化」**を重視。
▶ 主な質問例
- どんなタイミングで困ったか?
- 何を判断できずに不安になったか?
- 病院に行っていない日に起きた出来事は?
- 本当はどうしてほしかったか?
- どんな情報やフォローがあれば安心できたか?
フレーム③:飼い主が“もっとしてあげたかった”段階(後悔・理想)
想定される感情:
- 「もっと早く気づいてあげればよかった」
- 「元気なうちに○○をしてあげたかった」
- 「どこかに連れて行きたかった」
- 「もっと可愛くしてあげたかった」
▶ 主な質問例
- 元気なときにしたかったことは?
- なぜ、それができなかったのか?
- 当時の気持ちは?
- どんなサポートがあれば実現できたか?
- 理想と現実のギャップをどう感じたか?
このフェーズは、“後悔”の中にこそサービスの価値仮説が眠っている。
感情の奥にある「本当はどうしたかったのか」を丁寧に掘り下げる視点が重要です。

■ 当日の印象的な議論(抜粋)
往診フェーズ:
「飼い主はパニックで言語化できない。行動を再現してもらう方が正しい」
「スマホ操作だけでなく、動けない・叫ぶなど“身体的反応”も観察対象」
「夜間は“連絡できない”前提。そこが行動の分岐点になる」
事後フォロー:
「週1通院でも、残り6日が本当の勝負」
「病院では理解できても、家では再現できないことが多い」
後悔フェーズ:
「後悔の言語化は難しいが、価値提供のヒントが詰まっている」
「理想と現実のギャップを明確にすると、サービスの形が見えてくる」
■ 今後の進め方
次回(12月16日 10:00〜12:00)は、
- 行動再現・質問項目のブラッシュアップ
- インタビューのロールプレイ
- 広域アンケートの設計
を中心に進めます。
12月25日(木)には実際のインタビューを実施予定。
本日まとめた3つのフレームをもとに、最終的な質問セットを完成させます。
■ ファシリテーションの視点
今回は、ファシリテーターとして 「行動の奥にある感情の構造」を見極める ことを意識しました。
議論が進むにつれ、単なる質問設計ではなく、
「どんな場面で人は“わからなさ”に立ち止まるのか」
という観察の本質がチーム内で共有されていったのが印象的でした。
行動・言葉・沈黙のいずれも“データ”であり、
それをどう記述し、どう意味づけるかがファシリテーションの腕の見せどころです。
次回からはいよいよ、現場に出てのヒアリングフェーズ。
“飼い主のリアル”と向き合う第一歩が始まります。
ファシリテーター: 株式会社aund 代表取締役 栗林 陽
テーマ: 新規事業ファシリテーション
次回予定: 2025年12月16日(第6回 ヒアリング設計セッション)
4回目の投稿:https://aund.jp/archives/2148
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