犬と猫の地域包括ケアをめざして――第3回 ファシリテーション記録(2025年11月4日)

今回の第3回ミーティングでは、
これまで整理してきた「顧客像」と「課題」をさらに深めるため、
ペルソナ設定とカスタマージャーニーの設計に取り組みました。

ファシリテーションの目的は、
単なる仮説づくりではなく、「現実の飼い主に寄り添ったリアルな物語」を描き出すこと。
前回までの議論で見えてきた仮説を、実際の行動・心理・接点に落とし込み、
次のフェーズであるヒアリング設計(インタビュー項目づくり)へとつなげるための時間となりました。


■ セッション概要

日時:2025年11月4日(火)13:30〜@神奈川県大和市シリウス
参加者:プロジェクトメンバー2名+ファシリテーター
テーマ:ペルソナ設定/カスタマージャーニー作成


■ ペルソナの整理

まずは、現在の患者や想定顧客をもとに、複数のペルソナ像を作成しました。
犬・猫それぞれで特性が異なり、行動・心理・情報接点の違いが明確に見えてきました。

主なペルソナ例(匿名化)

  • Aさん(柴犬飼い主):犬種特化の雑誌・コミュニティ・SNS(Instagram)で情報収集。
     愛犬の介護経験から「安心できる在宅ケア」を探していた。
  • Bさん(フレンチブルドッグ飼い主):HPからの流入。
     かかりつけ病院への不信感をきっかけに、新しい往診サービスを検索。
  • Cさん(猫飼い主):家の周囲の保護猫ネットワークに所属。地域情報に敏感。
  • Dさん(保護猫・慢性疾患あり):近所のコミュニティや口コミが主な情報源。
  • Eさん(高度医療志向):SNS(X)経由で専門情報を収集。お金ではなく最善の治療を求める傾向。

共通して見られた特徴

  • 経済的に安定しており、自立している
  • 飼い主本人が主導して情報を探す傾向
  • 「この子に何をしてあげられるか分からない」という不安(不安はその瞬間に何ができるかわからないのと、生死への不安の2種類)が常にある
  • 過去に病院対応への不満・不信を経験している

■ カスタマージャーニーの設計

複数のペルソナの中から、今回は特に関わりの深い1名(仮名:Aさん)を取り上げ、
在宅看護・往診サービスの「認知から利用までの流れ」を具体的に描き出しました。

設定例:Aさん(女性/55歳/横浜市在住/柴犬・肝不全/マンション暮らし)

目標: 「在宅で、ペットが穏やかに過ごせるよう尽くしたい」

状況

長期的な看病が必要で、短期入院では対応が難しい。そのため、在宅での看病を選択。
仕事の都合で一時的に家を空けることがあり、その際に往診を希望。


ジャーニー概要

フェーズ主な行動・体験心理・課題
認知愛犬の体調悪化 → 動物病院受診 → 入院・肝不全判明 → 自宅療養へ切り替え病院では往診が対応できないと知り、不安と孤立感
リサーチネット検索「横浜市 往診 犬」→ Googleマップで上位表示を閲覧「どこが信頼できるのか」「費用は?」という疑問
比較検討口コミや星評価を確認/予約方法の選択肢(電話・フォーム・LINE)を比較評価や料金が安心材料になるが、情報の断片性にストレス
予約電話・LINEで日時調整 → フォーム入力 → 獣医師から返信手続きが複雑に感じることもある/即時対応が安心につながる
診察訪問診療・検査・経過報告をLINEで共有一連の流れがスムーズであれば、信頼・継続利用につながる

■ ヒートマップでの課題抽出

作成したカスタマージャーニーをもとに、
「どこにストレスや不安が集中しているか」をヒートマップ形式で可視化しました。
参加者全員がシールを貼りながら、体験の痛点を議論。

特に赤く集中したポイントは以下の通りです。

  • 認知/検索段階:そもそも、往診という概念が薄いため、「往診」というワードにたどり着けないのでは?また、必要な情報が分散しており、信頼できる比較基準がない
  • 予約段階:問い合わせ経路が複数あり、どれを使えばいいか迷う。何度も応募フォーマットへ記入するのが煩雑。
  • 診察後フォロー:経過共有や連絡頻度にバラつきがある。ほとんどの往診では、個別でのLINE等でのフォローは行っていない。

これらは、次回以降のヒアリングで検証すべき重要な論点となります。


■ ファシリテーションの視点

今回のセッションでは、「顧客の体験を物語として共に歩く」ことを重視しました。
議論の中で、ペルソナ一人ひとりに具体的な生活背景を与え、
「なぜ悩み、どう行動し、どこで立ち止まるのか」を可視化することで、
チーム全員が“飼い主の立場に立つ”感覚を共有できました。

ヒートマップの議論では、ファシリテーターとして
「違和感」や「感情の動き」が出た瞬間を丁寧に拾い上げ、
議論を広げすぎず、深める方向へ導くことを意識しました。


■ 今後の展開

次回は、今回作成したヒートマップをもとに、
「どんな質問を投げかければ、課題の実在を確かめられるか?」を整理します。
つまり、プロブレムインタビュー設計フェーズへの移行です。


ファシリテーター: 株式会社aund 代表取締役 栗林 陽
テーマ: 新規事業ファシリテーション
次回予定: 11月中旬(第4回 ヒアリング設計セッション)

1回目の投稿:https://aund.jp/archives/2020

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