世界のエンゲージメント地図――日本・米国・欧州・中東を比べて見えた「3つの決定的な違い」

目次

  1. きょうもみんな出社しているのに、熱量だけ世界旅行していないか
  2. 比べる前にそろえておきたい「エンゲージメント」のものさし
  3. 日本:6%の現実と、「辞めないけど燃えていない」問題
  4. 米国:高めの熱意から「大退職」を経て、「とりあえず今は居残る」空気へ
  5. 欧州:数値は低いが、「仕事は人生の一部でいい」という前提の違い
  6. 中東:平均値は低いが、湾岸を中心に「攻める職場」と「消耗する職場」の二極化
  7. 理論でほどく:なぜ地域ごとにこんな差が出るのか(JD-RとSDTで見る)
  8. 比較して分かる「うまくいく会社」の共通点
  9. あなたの組織は、どの地域パターンにいちばん似ているか

1. きょうもみんな出社しているのに、熱量だけ世界旅行していないか

朝、オフィスに行くと席はそれなりに埋まっている。
PCも開いている。Slackも動いている。会議にも出ている。

なのに、「このチーム、ちゃんと“ここで働きたい顔”になっているかな?」と問うと、少し不安になる。

実はこの「顔つき」は、国や地域によってだいぶ違います。

・数字だけ見ると世界最低クラスの日本
・一時期は世界トップ級の熱量を誇っていた米国
・エンゲージメント指標では常に下位の欧州
・低水準と言われつつも、国によってギャップが大きい中東・湾岸地域

この記事では、いわゆるドラッガーの提唱した知識労働者を中心に、日本・米国・欧州・中東のエンゲージメントと離職の特徴を、できるだけ「現場の肌感」に近い言葉で並べてみます。


2. 比べる前にそろえておきたい「エンゲージメント」のものさし

ここでの「エンゲージメント」は、単なる満足度ではなく、

・自分の仕事に意味を感じているか
・この組織の一員でいたいと思うか
・力を発揮しようという前向きなエネルギーがあるか

といった状態を指します。

Gallupの「State of the Global Workplace」など代表的な調査では、
「熱意を持って働いている層(Engaged)」の割合を、各地域で共通の枠組みで測定しています。直近のレポートでは、世界全体のエンゲージメントは2割前後で横ばい〜やや低下、日本は6%前後で“最下位グループ”、中東・北アフリカも15%前後と低水準、北米は3割前後で比較的高い水準が続いています。Gallap社記事

この前提を押さえたうえで、地域別に「数字+背景+ストーリー」を見ていきます。


3. 日本:6%の現実と、「辞めないけど燃えていない」問題

Gallupの最新データでは、日本で「熱意を持って働いている」と分類される人は約6%。世界平均を大きく下回り、調査対象国の中でも最低水準レベルに位置づけられています。Nippon+1

特徴的なのは、

・「職場に不満爆発」というより、「静かに諦めている」層が厚いこと
・長時間労働や曖昧な評価のわりに、「とりあえず今の会社に残っている」人も多いこと

です。

要因としてよく挙がるのは、

・トップダウン文化の強さ(意見しても変わらない感)
・キャリアパスや評価基準の不透明さ
・仕事の目的が伝わらず、「何のためにやっているか分からない」状態
・働き方改革はあるが、現場レベルでは“昔のやり方”が残っていること

一方で、メルカリ、サイボウズ、アトラエのように、

・定期的なエンゲージメント調査
・オープンな情報共有
・柔軟な働き方と裁量の付与

を徹底している企業では、知識労働者のロイヤルティと自発性を高く維持している例も出てきています。


4. 米国:高めの熱意から「大退職」を経て、「とりあえず今は居残る」空気へ

米国(+カナダ)は、世界平均より高いエンゲージメント水準を長く維持してきた地域です。直近のGallup指標でも、米国のエンゲージメント比率は約3割前後と、依然として上位グループ。

ただしここ数年はストーリーが揺れています。

・2021〜2022年:「Great Resignation(大退職)」で自発的離職が急増
・2023〜2025年:求人の減速と不透明感から、離職率が落ち着き「Job-hopping」から「Job-hugging(今は様子見でとどまる)」傾向へ転換 Bureau of Labor Statistics

現場レベルでは、

・リモート/オフィスの最適バランスを巡る摩擦
・「使命」や「社会的インパクト」とのつながりを求める若手の増加
・マネージャー層の燃え尽き(中間管理職のエンゲージメント低下)

がテーマになっています。

それでも、

・ミッションとバリューを軸に意思決定する
・強みベースのマネジメント
・柔軟な働き方と高い透明性

を実践する企業(Microsoft, Salesforce, Zapposなど)は、エンゲージメントも定着率も高く、「人への投資は業績に跳ね返る」という事例として世界中から参照されています。


5. 欧州:数値は低いが、「仕事は人生の一部でいい」という前提の違い

Gallupの地域別統計では、欧州は長年「世界で最もエンゲージメントが低い地域」とされており、直近でも1割強程度にとどまる国が多いと報告されています。

ただし、この数字だけを見て「欧州の人はやる気がない」と判断するのは危険です。

欧州の特徴は、

・「仕事より生活」という価値観が比較的オープンに認められていること
・労働時間や休暇制度が整備されており、「仕事に人生を賭ける前提」がそもそも薄いこと
・その代わりに、「公平さ」「約束を守ること」「差別がないこと」への感度が非常に高いこと

です。

エンゲージメントスコアが低くても、「静かな不満を抱えながらも権利で守られて働く」スタイルが成立してしまう国もあります。一方で、昇進や評価の不透明さ、不公平な扱いがあると、一気にシニカルになり、組織への信頼を失う傾向も強い。

欧州で高評価の企業に共通するのは、

・評価と昇進の透明性
・働く場所・時間の柔軟性
・ダイバーシティ&インクルージョンへの実効的な取り組み

といった「フェアであること」を最優先にしたマネジメントです。


6. 中東:平均値は低いが、湾岸を中心に「攻める職場」と「消耗する職場」の二極化

中東・北アフリカ(MENA)は、Gallupデータでは「エンゲージメント低位グループ」に位置し、約15%前後と報じられることが多い地域です。ETHRWorld.com

ただし実態はかなり複雑です。

・政府系・インフラ系・大手企業など、安定志向で長期雇用色の強い組織
・UAEやサウジなどで急成長するテック・サービス業
・多国籍メンバーが行き交う外資系企業

が混ざり合い、「高い報酬と成長機会で世界中から人材を集める職場」と、「階層が厳しく声を上げにくい職場」が同居しています。

課題としては、

・階層型・権威主義的な文化が残る組織では、意見が言えずエンゲージメントが上がりにくい
・出稼ぎ・駐在など、そもそも“期間限定コミット”前提の人材が多く、ロイヤリティ形成が難しい
・若い世代が「給与だけでなく目的・成長・公正さ」を求めており、合わない職場からはすぐに転職する

その一方で、湾岸の一部企業は、

・柔軟な働き方
・充実した福利厚生
・多様な人材に開かれた社風

を打ち出すことで、グローバルレベルで見ても高いエンゲージメントを実現し、「行きたい会社」として名指しされる存在になりつつあります。


7. 理論でほどく:なぜ地域ごとにこんな差が出るのか(JD-RとSDTで見る)

ここまでの違いは、実はシンプルな理論である程度説明できます。

1つ目は、ジョブ・デマンド・リソース(JD-R)モデル。

・仕事の負荷(時間プレッシャー、責任の重さ、不明瞭な役割)
・仕事の資源(上司・同僚の支援、裁量、情報、成長機会、公平な評価)

このバランスで、エンゲージメントと燃え尽きが決まるという考え方です。

・日本:負荷高め、資源(裁量・フィードバック)が相対的に不足しがち
・米国:負荷も高いが、資源を整えている企業では高エンゲージメント。整っていない所は離職で露呈
・欧州:負荷は法律で抑えめだが、資源の中でも「公平さ」への期待が強く、そこを外すと一気にシニカルに
・中東:報酬など一部の資源は厚いが、「声を出す安全性」や長期キャリアの見通しが弱い組織も多い

2つ目は、自己決定理論(SDT)。

人がやる気を出す条件として、

・自律性(自分で選べている感)
・有能感(成長している感)
・関係性(信頼できる人とのつながり)

の3つを挙げる理論です。

エンゲージメントが高い企業・地域は、この3つを意識的に満たしています。逆に言うと、「命令は多いが選べない」「評価がよく分からない」「上司と本音で話せない」環境では、地域を問わず知識労働者は静かに心が離れていきます。


8. 比較して分かる「うまくいく会社」の共通点

ここまでを乱暴にひとことでまとめると、

「国や文化は違っても、“うまくいっている会社”はやっていることが似ている」

ということです。

・社員の声を、定期的かつ誠実に聞き続けている(サーベイ+対話)
・評価・昇進のルールをできるだけ透明にしている
・マネージャーに“数字管理”だけでなく“対話とコーチング”の役割を期待し、育てている
・働く場所・時間・キャリアパスに、一定の選択肢を用意している
・会社のミッションや事業の意義を、現場の仕事と結びつけて語り続けている

これらは、日本でも、米国でも、欧州でも、中東でも、成功企業の共通項として何度も出てきます。


9. あなたの組織は、どの地域パターンにいちばん似ているか

「日本企業だから、日本の分類に入る」と考える必要はありません。

・数字は低いが人は辞めない → 日本型「惰性残留」パターン
・転職市場が動けば一気に流出 → 米国型「市場と連動」パターン
・制度は整っているが信頼がない → 欧州型「公平さが試される」パターン
・報酬は高いが“声が出せない” → 中東型「権威と多様性のはざま」パターン

自社の状況を、これらのどれに近いか一度なぞってみると、「どこから手を付けるか」が少しクリアになります。

世界各地のデータや事例は、“遠いどこかの話”ではなく、「自社の今」を映す鏡として使えます。自分たちはどのパターンに近いのか、どの成功要素なら取り入れられそうかを冷静に見極め、一気に全部ではなく「まずこの1〜2個を変える」と決めて動いてみる。

小さく試し、結果を開示し、対話を重ねる。その地道な積み重ねが、国や業界に関係なく、「ここで働き続けたい」と思われる組織をつくっていきましょう。

aundでは丁寧にエンゲージメント向上や、実務的な離職防止対策といった面も含めて相談に乗らせていただきます。
初回は無料で相談に乗りますし、それだけでも十分効果があったという声もございます。まずは気軽にお問合せください。

関連サービス:
オンボーディング支援/Kick-ake
リーダーシップ研修【導】
チームビルディング支援ワークショップ