OJT制度の設計手順|人事がつくる育成計画とトレーナーの育て方

新入社員の配属後の育成を「現場のOJTにお任せ」にしていると、配属先によって育ち方に大きな差が出ます。丁寧に教える先輩がいる部署では早く戦力になり、忙しい部署では「見て覚えて」で終わってしまう。人事としてこの差を放置すると、新人研修でそろえたはずのスタートラインが、半年後にはばらばらになります。

この記事では、人事・人材育成担当者がOJTを「制度」として設計するための手順を、目的設定から育成計画書、新人研修の段階からOJT担当者を巻き込む方法、OJTトレーナーの育て方、振り返りの仕組みまで順に整理します。社内で使えるチェックリストと、上司や経営から聞かれやすい質問への答え方もまとめました。

OJT制度とは|「現場任せのOJT」と何が違うのか

OJT(On the Job Training)は、実際の業務を通じて仕事を教える育成方法です。集合研修などのOFF-JTが「共通の基礎」をそろえるのに対し、OJTは「その職場で成果を出すための具体的な仕事のやり方」を身につける場になります。

OJTそのものは多くの会社で行われていますが、「OJT制度」と呼べる状態になっているかは別の話です。制度として設計されたOJTには、少なくとも次の4つがそろっています。

  • いつまでに、どこまでできるようになるかという到達目標
  • 誰が何を教え、誰が見守るかという役割分担
  • 教える内容と順番を書いた育成計画書(OJT計画書)
  • 進み具合を確かめ、計画を直す振り返りの場

逆に言えば、この4つがない状態は「OJTという名前の現場任せ」です。人事の仕事は、現場で教えることそのものではなく、教えやすく、育ちやすい枠組みをつくることにあります。

OJT制度が機能しない3つの原因

制度を設計する前に、うまくいかないOJTに共通するパターンを押さえておきます。設計手順の各ステップは、これらの原因をつぶすためにあります。

原因1:ゴールが「一人前になる」で止まっている

「早く一人前に」という目標は、人によって思い浮かべる姿が違います。トレーナーは「この業務を一人で回せる」を想定し、上司は「自分で考えて動ける」を想定している、といったずれが起きると、新人は何を目指せばよいか分かりません。到達目標が具体的でないと、進み具合を確かめることもできません。

原因2:育成がトレーナー一人に集中している

トレーナーに指名された先輩が、自分の業務を抱えたまま新人の指導をすべて担う形は、多くの職場で見られます。トレーナーが忙しい時期は指導が止まり、トレーナーと新人の相性が悪いと逃げ場がありません。上司や周囲のメンバーの役割が決まっていないことが根本の原因です。

原因3:教え方と振り返りが「個人の経験」頼み

トレーナーの多くは、自分が教わったやり方で教えます。教える技術を学ぶ機会がないまま指名され、記録や振り返りの型もないため、うまくいったこともいかなかったことも組織に残りません。翌年また同じところでつまずきます。

OJT制度の設計手順6ステップ

ここからは、人事が主導してOJT制度をつくる手順です。新入社員の配属を想定していますが、中途入社者や異動者のOJTにも同じ考え方が使えます。

ステップ1:OJTの目的と到達目標を決める

最初に、配属後3か月・6か月・1年の時点で「何ができる状態か」を言葉にします。「顧客対応の基本ができる」ではなく、「定型の問い合わせには先輩の確認なしで回答できる」「月次の集計を手順書を見ながら一人で作れる」のように、第三者が見て判断できる表現にするのがポイントです。全社共通の目標(報連相、仕事の進め方など)と、部署ごとの目標(その職場固有の業務)を分けて書くと、現場も書きやすくなります。

ステップ2:教える業務を棚卸しし、順番をつける

各部署に、新人が担当する業務を書き出してもらいます。そのうえで「最初の1か月で覚える業務」「3か月目までに任せる業務」「1年目後半に挑戦する業務」のように順番をつけます。この作業を現場任せにせず、人事が部署の上司・トレーナーと一緒に行うことで、部署間の水準のばらつきを抑えられます。

ステップ3:トレーナー・上司・職場の役割を分ける

トレーナー一人に育成を集中させないために、役割を最初に決めておきます。たとえば次のような分け方です。

  • OJTトレーナー:日々の業務を教え、やってみせ、任せ、フィードバックする
  • 上司:到達目標を決め、月1回の振り返りに同席し、トレーナーの負荷を調整する
  • 職場のメンバー:担当業務ごとの「教える人」を分担し、トレーナー不在時の相談先になる
  • 人事:制度と計画書の型をつくり、全体の進み具合を定点で確認する

トレーナーとは別に、業務上の利害が少ない他部署の先輩をメンターとしてつける会社もあります。大切なのは「新人を職場全体で育てる」前提を、制度として明文化することです。

新人は、OJT担当者とだけ仕事をするわけではありません。日々の業務では部署のさまざまな人と関わり、質問したり、助けを求めたりします。「OJT担当者以外には聞きにくい」状態では、新人は困りごとを一人で抱え込みがちです。新人の心理的安全性を高めるためにも、受け入れ前に部署全体で「誰が何を教えるか」「困ったときは誰に聞いてよいか」を話し合い、OJT担当者に任せきりにせず部署としてOJTをしていく準備をしておくことが重要です。

ステップ4:OJT計画書(育成計画書)の型をつくる

ステップ1〜3の内容を、一枚の計画書にまとめます。最低限入れたい項目は「到達目標(時期別)」「教える業務と順番」「担当者」「振り返りの日程」「振り返りの記録欄」です。人事が型を用意し、部署は中身を埋めるだけにすると、記入の負担が下がり、内容の水準もそろいます。計画書は一度つくって終わりではなく、振り返りのたびに書き換える前提で運用します。

ステップ5:OJTトレーナーを育てる

トレーナーを指名したら、新人の配属前に「教える側」の準備の場を設けます。内容は次の章で詳しく整理します。制度の成否は、このステップにどれだけ時間をかけられるかで大きく変わります。

ステップ6:振り返りの場と、人事の定点観測を決める

トレーナー・新人・上司の三者で、月1回程度の振り返りを行います。見るのは「計画どおり進んでいるか」「つまずいている業務はどこか」「計画を変える必要があるか」の3点です。人事は各部署の計画書を定期的に確認し、遅れている部署には個別に声をかけます。新入社員フォローアップ研修のタイミングで、新人同士・トレーナー同士で状況を持ち寄る場をつくるのも効果的です。フォローアップ研修の時期と内容は「新入社員フォローアップ研修とは?実施時期・内容・失敗しない設計のポイント」でまとめています。

新人研修とOJTを切り離さない|研修期間中からOJT担当者を巻き込む

多くの企業では、4〜5月の新人研修と配属後のOJTが切り離されています。研修は人事、配属後は現場という分担のため、新人にとっては研修で学んだことと配属先の仕事がつながりにくく、OJT担当者にとっては配属日に初めて新人と顔を合わせる、ということが起こりがちです。

そこでおすすめしたいのが、新人研修の段階からOJT担当者に関わってもらうことです。

OJT担当者に研修へ参加してもらい、現場のリアルを語ってもらう

研修のなかにOJT担当者が話す時間をつくり、配属先の仕事の実際や、現場で求められること、自分が1年目に苦労したことなどを語ってもらいます。新人は、研修で学んでいることが配属後のどの場面で使われるのかを具体的に想像できるようになります。

研修期間中に1日だけでも、OJT担当者のいる部署に配属してみる

研修期間中に1日でもよいので、新人をOJT担当者のいる部署に配属してしまうのも一つの方法です。実際の職場の空気や仕事の流れに触れることで、新人は配属先の部署を具体的に想像できるようになります。研修に戻ったあと、学んでいることの意味が腹落ちしやすくなり、研修への本気度が高まることもあります。

OJT担当者にとっては「どんな新人が来るか」を事前に知る機会になる

研修期間中に新人と接点を持つことで、OJT担当者はどのような新人が入ってくるのかを配属前に確かめられます。その新人に合わせた教育計画や、どの業務を担当してもらうかのあたりを早めにつけておけるため、ステップ4のOJT計画書も中身のあるものになります。人事としては、研修日程と各部署の繁忙期をすり合わせ、早めに協力を依頼しておくのがポイントです。

OJTトレーナーの育て方|研修で扱う5つの内容

OJTトレーナー研修は、「教え方のテクニック」だけを扱うと現場で使われにくくなります。制度の目的と自分の役割を理解し、同じ立場のトレーナー同士で悩みを共有できる場にすることが大切です。扱いたい内容は次の5つです。

1. OJT制度の目的と、トレーナーの役割

なぜOJTを制度にするのか、トレーナーに期待することは何か、逆に一人で抱えなくてよいことは何かを伝えます。上司や職場の役割分担もここで共有しておくと、「全部自分がやらなければ」という負担感が下がります。

2. 教え方の基本(やってみせる・説明する・任せる・振り返る)

OJTの基本は「やってみせる→説明する→やらせてみる→振り返る」の4段階です。特に経験のあるトレーナーほど、自分が無意識にやっている手順を言葉にするのが難しくなります。研修では、自分の担当業務を一つ選び、新人向けの手順として書き出す演習を入れると効果的です。

3. フィードバックと問いかけ

答えを教えるだけでなく、「どこまでは分かった?」「次に同じ場面が来たらどうする?」と問いかけて、新人自身に考えさせる関わり方を練習します。経験を振り返って次に活かすサイクルについては「新入社員研修は「座学」より「経験学習」が効く理由|コルブモデルで設計を見直す」も参考になります。

4. OJT計画書の書き方と使い方

人事が用意した計画書の型を実際に埋めてみます。到達目標を「第三者が判断できる表現」にする練習や、振り返りの記録をどう書くかをここで扱います。

5. トレーナー同士の共有の場

配属後1〜2か月の時点で、トレーナーが集まって困りごとを共有する場を設けます。「同じことで悩んでいる人がいる」と分かるだけで負担感は変わりますし、部署をまたいだ工夫の交換も起きます。人事にとっては、現場で何が起きているかを知る貴重な機会にもなります。

OJT制度づくりのチェックリスト

自社のOJTが「制度」になっているか、次の項目で確認してみてください。

  • □ 配属後3か月・6か月・1年の到達目標が、第三者が判断できる言葉で書かれている
  • □ 全社共通の目標と、部署ごとの目標が分けて整理されている
  • □ 新人が担当する業務が棚卸しされ、教える順番が決まっている
  • □ トレーナー・上司・職場メンバー・人事の役割が文書で決まっている
  • □ OJT計画書の型があり、全部署が同じ型を使っている
  • □ 新人研修の期間中に、OJT担当者と新人が接点を持つ機会がある
  • □ トレーナーが配属前に「教える側」の研修を受けている
  • □ 三者での振り返りが月1回程度、日程として決まっている
  • □ 人事が各部署の進み具合を定期的に確認している
  • □ トレーナーの負荷が、業務量や評価で考慮されている

チェックが付かない項目が多い場合は、すべてを一度に整えようとせず、まず「到達目標」と「計画書の型」から手をつけるのがおすすめです。この2つがあるだけで、振り返りの場が意味を持ち始めます。

OJT制度の設計でよくある質問

OJT制度を社内で提案・導入する際に、上司や経営、現場から聞かれやすい質問と答え方の例です。

Q. 「今もOJTはやっている。なぜわざわざ制度にするのか」と聞かれたら?

「OJTの有無」ではなく「配属先による育ち方の差」を論点にすると伝わりやすくなります。部署ごとの立ち上がりの違いや、トレーナーの負担の偏りなど、社内で実際に起きている事象を挙げ、制度化の目的はその差を小さくすることだと説明します。

Q. OJT期間はどのくらいに設定すればよいか?

新入社員の場合は、配属から1年を一区切りにする会社が多く見られます。ただし期間よりも、3か月・6か月などの節目ごとに到達目標と振り返りを置くことが重要です。業務の難易度によっては、1年後も計画書を続ける部署があってもかまいません。

Q. 現場から「トレーナーの負担が重い」と言われたらどうするか?

トレーナー一人に任せず、職場で業務ごとに「教える人」を分担する設計にしていることを伝えます。そのうえで、トレーナー期間中の業務量の調整や、育成への貢献を評価で扱うことを上司と合意しておくと、制度への協力が得やすくなります。

Q. 新入社員研修とOJTはどうつなげればよいか?

新人研修の期間中にOJT担当者に参加してもらう、1日だけでも配属先の部署で過ごす機会をつくるなど、研修と配属を切り離さない工夫が効果的です。あわせて、新人研修で使った言葉や考え方を、トレーナー研修でも共有しておくことが大切です。新人だけが新しい言葉を覚えて配属されても、職場がその言葉を知らなければ学びは定着しません。この点は「新入社員研修が現場で活かせない理由|配属先に「共通言語」がないと学びは消える」で詳しく解説しています。

まとめ|OJT制度の設計は「現場で育つ仕組み」をつくる仕事

OJT制度の設計で人事がやるべきことは、到達目標を言葉にし、教える業務と順番を決め、役割を分け、計画書の型と振り返りの場を用意し、トレーナーを育てることです。どれも特別な仕組みではありませんが、そろっているかどうかで、配属先による育ち方の差は大きく変わります。

新人研修の段階からOJT担当者を巻き込み、新人を一人のトレーナーではなく部署全体で育てる。その前提を制度として明文化することが、OJTを「現場任せ」から抜け出させる第一歩です。

あわせて読みたい

この記事を書いた人:栗林 陽(株式会社aund 代表取締役)
研修会社(現・学研グループ)に10年半在籍し、企業研修の企画営業、新規事業でのプロダクトオーナー、グループ本社人事での内製研修の立ち上げを経験。研修を「売る側」と「買う側」の両方を知る立場から、2025年に株式会社aundを設立。管理職・新入社員向けの研修設計と組織開発を支援している。

新人研修とOJTを「同じ言葉」でつなぐために

OJTが機能するかどうかは、新人研修で何を共通の土台にしておくかにも左右されます。aundの新入社員研修「アイデアを、カタチにする」のプログラム詳細を資料にまとめました。来年度の新人研修とOJTを一緒に見直す際の材料としてお使いください。

新人の年間育成計画を、問いに答えながらつくる

人材育成担当者のための無料ツール「SODATE」で、新人研修からOJTまでの年間育成計画書を、問いに答えながら形にできます。登録不要・無料。書いた内容は、お使いのブラウザの中だけに保存されます。

SODATEを無料で使う →


もっと実践的なヒントを知りたい方へ

▶ お役立ち記事一覧はこちら | 30秒で自社の会議力を診断

この記事を書いた人

栗林 陽

栗林 陽(くりばやし よう)

株式会社aund 代表取締役 / 会議カルチャー改革ファシリテーター

新卒で東芝ソリューション(現・東芝)にて営業・PJ支援を経験後、ジェイテックスマネジメントセンター(現学研グループ)で企業研修の企画・販売に従事。新規事業部門でSaaSプロダクトマネージャーを経て、学研ホールディングス人事戦略室に出向し研修0→1立上げ・人材育成領域を担当。2019年、株式会社aund設立。会議ファシリテーション・組織開発・ワークショップ設計を強みに、現場に根づく変革を支援する。

学びの系譜
  • 2017年|社会起業大学 修了
  • 2019年|慶應MCC 組織開発実践講座 修了
  • 2022年|東京デザインプレックス研究所 UIUX講座 修了
  • 2026年|AI経営寄付講座 受講
  • 2026年|青山学院大学 ワークショップデザイン講座 修了
アドバイザリー実績
  • 2025年6月〜2026年3月|株式会社IKUSA 研修事業アドバイザリー
  • 2026年4月〜現在|株式会社東京チェンソーズ 研修事業アドバイザリー
LinkedIn プロフィール →