1on1が形骸化する理由と人事の打ち手|制度を立て直す4つの施策
1on1制度を導入して2〜3年。実施率は報告されているものの、現場からは「結局、業務の進捗確認になっている」「雑談で終わってしまう」「忙しくてリスケが続いている」という声が聞こえてくる。人事・人材育成担当の方から、よく伺う悩みです。
管理職向けに傾聴やコーチングの研修を追加しても、状況があまり変わらない。そんなとき、問題は管理職個人のスキルではなく、1on1を支える「仕組み」の側にあることが少なくありません。この記事では、1on1が形骸化する構造を人事の視点から整理し、制度を立て直すための施策を紹介します。
1on1が形骸化しているときに見られる4つのサイン
まずは自社の状況を確認してみてください。次のうち複数が当てはまる場合、1on1は「実施されているが機能していない」状態に近づいています。
- 中身が進捗確認:定例の業務報告と1on1の区別がついていない
- キャンセルが常態化:「今週は忙しいので来週に」が繰り返され、優先順位が最も低い予定になっている
- 部下が受け身:部下側が「何を話せばいいのか分からない」「上司の時間を取るのが申し訳ない」と感じている
- 人事が持つ指標が実施率だけ:1on1で何が起きているのか、人事が把握する手段がない
1on1が形骸化する4つの構造的な理由
1. 目的が「制度の言葉」のまま、現場の言葉になっていない
「部下の成長支援」「信頼関係の構築」「キャリア自律」。導入時の資料には複数の目的が並びがちです。しかし目的が多いほど、管理職は30分の中で何をすればよいのか判断できません。結果として、一番話しやすい「業務の進捗」に話題が流れていきます。
2. 1on1が管理職の「個人技」になっている
研修で傾聴や質問の技法を学んでも、職場に戻れば管理職は一人で1on1に向き合います。うまくいかなかった1on1を振り返る相手も、他の管理職がどうしているかを知る機会もありません。こうして1on1のやり方は管理職ごとにばらつき、うまくいっている部署とそうでない部署の差が固定化していきます。
3. 人事が測っているのが「実施」だけ
実施率は把握しやすい一方で、実施率を追うほど「とりあえず15分やって記録を残す」という行動が増えます。制度の目的が部下の成長であるなら、本来見るべきは回数ではなく、部下の側に起きている変化です。
4. 部下に「1on1は何の時間か」が伝わっていない
制度の説明は管理職向けに行われても、部下向けには「上司と定期的に話す時間です」程度で終わっていることがよくあります。部下からすると、評価につながる場なのか、相談してよい場なのかが分からず、「特に問題ないです」と答えておくのが一番安全になります。実際、1on1を振り返る場をご一緒すると、管理職の方からは「部下が何も話してくれない」、若手からは「何を話せばいいのか分からない」という声が、同じ職場の中から両方聞こえてくることがあります。話すことがないのではなく、話す入口がない状態です。1on1は上司だけでなく、部下の側の準備や期待もそろって初めて機能します。
なお、管理職ごとにやり方がばらつく問題は1on1に限りません。目標の立て方や会議の回し方も含めた全体像は「管理職ごとにマネジメントがバラバラになる理由」で整理しています。
形骸化した1on1を立て直す人事の施策
目的を一つに絞り、「問いの型」を配る
まずは目的を一つに絞ります。たとえば「仕事の経験から学ぶ場」と決めたなら、毎回使える問いをセットで配ります。
- この2週間で、一番手応えがあった仕事は何ですか
- 迷ったこと、うまくいかなかったことは何ですか
- 次に試してみたいことは何ですか。私に手伝えることはありますか
問いの型があると、管理職は「何を話せばいいか」で迷わず、部下も事前に話すことを準備できます。
管理職同士で1on1を振り返る場をつくる
月に1回30分程度、管理職3〜5名で「最近の1on1でうまくいったこと・困ったこと」を共有する場を設けます。人事が進行役を務め、個人が特定されない範囲でケースを持ち寄ってもらいます。ほかの管理職のやり方を知ることで、1on1が個人技から「組織のやり方」に変わっていきます。管理職同士が具体的なケースを持ち寄って目線をそろえる進め方は、「評価者研修の内容と進め方」で紹介している模擬キャリブレーションとも共通しています。
実施率ではなく「部下の実感」を測る
半期に一度、部下に「1on1で次の行動が明確になったか」「困りごとを相談できたか」といった数問の簡易アンケートを取ります。実施率とあわせて見ることで、回数は多いが実感がない部署、回数は少ないが機能している部署が見えてきます。
全社一斉ではなく、1部門で3か月試す
制度の再設計は、いきなり全社に展開するより、協力的な部門で3か月ほど試すほうが確実です。試行で出てきた問いの改善点や運用の工夫を、そのまま全社展開の材料にできます。
1on1の形骸化について人事からよくある質問
Q. 1on1の頻度と時間はどのくらいが適切ですか
決まった正解はありませんが、まずは隔週30分程度から始めると無理がありません。大切なのは回数の多さより、キャンセルされない頻度に設定することです。毎週と決めて半分が流れるより、隔週で確実に実施できるほうが、部下にとって「自分のための時間」として定着しやすくなります。
Q. 1on1と評価面談は分けるべきですか
分けることをおすすめします。評価の話が入ると、部下は失敗や迷いを話しにくくなります。評価面談は期初・期末に別枠で行い、1on1は評価から切り離した「経験の振り返りと相談の場」と位置づけると、部下も安心して話せます。制度説明の段階で、部下にもこの区別を明確に伝えておきます。
Q. 管理職に1on1研修を追加すれば解決しますか
傾聴や質問の技法を学ぶことには意味がありますが、研修だけで形骸化が解消することは多くありません。研修後に管理職が一人で実践する状態が続くと、学んだことは数週間で元に戻りがちです。研修を行う場合も、その後に管理職同士で振り返る場や、問いの型とセットにすることで、現場で使われ続けやすくなります。
Q. 1on1の記録シートは必要ですか
簡単なもので十分です。項目を増やすと記録が目的化し、「シートを埋める時間」になってしまいます。「話したこと」「次に試すこと」の2行程度にとどめ、次回の冒頭で前回の「次に試すこと」を振り返る使い方をすると、1on1同士がつながり、部下の成長が見えやすくなります。
1on1の定着は「管理職の共通言語」から
1on1が形骸化する背景には、管理職一人ひとりの努力では越えられない構造があります。目的を絞り、問いをそろえ、管理職同士で学び合う場をつくる。そうして管理職の間に1on1についての共通言語が生まれると、制度は「やらされるもの」から「使えるもの」に変わっていきます。人事の役割は、研修を追加することよりも、この共通言語が育つ仕組みを整えることにあるのかもしれません。
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