管理職研修の効果が出ない理由|現場で活きる研修に変える人事の4つの打ち手
「管理職研修を毎年実施しているのに、現場のマネジメントが変わった実感がない」「受講後アンケートの満足度は高いが、経営からは『で、何が変わったのか』と聞かれる」。管理職研修を担当する人事・人材育成担当者から、よく聞く悩みです。
管理職研修の効果が出ないとき、原因は講師やプログラムの質だけにあるとは限りません。多くの場合、研修の「前」と「後」の設計、そして誰と一緒に受けるかに原因があります。この記事では、管理職研修の効果が出ない理由を構造的に整理し、人事が施策として打てる4つの手を紹介します。
管理職研修の「効果が出ない」とはどういう状態か
まず、「効果が出ない」の中身を分けておきます。人事が社内で説明を求められるとき、混ざりやすいのが次の3つです。
- 学んでいない:研修の内容が理解されていない、自分事になっていない
- 使っていない:内容は理解したが、職場に戻ってから行動に移していない
- 成果につながっていない:行動は変わったが、チームの状態や業績の変化として見えていない
管理職研修で最も多いのは、2つ目の「使っていない」です。研修中は前向きに参加し、アンケートの評価も高い。しかし職場に戻ると、目の前の業務に追われ、元のやり方に戻ってしまう。つまり、問題は研修会場の中よりも、研修会場と職場のあいだにあることが多いのです。
管理職研修の効果が出ない5つの理由
理由1:研修の目的が「受講させること」になっている
「新任管理職になったら受ける」「毎年この時期に実施している」という形で、研修が年間行事として定着していると、目的が「全員に受講させること」にすり替わりがちです。何のための研修か、研修後にどんな行動が増えていればよいかが言葉になっていないと、受講者も上司も、研修を「業務の合間のイベント」として扱います。
理由2:自社の課題と研修テーマがずれている
コーチング、目標管理、評価面談、ハラスメント防止など、管理職研修の定番テーマはどれも大事です。しかし、「一般的に必要とされるテーマ」と「自社の管理職がいま困っていること」は一致するとは限りません。部下育成の前に、そもそもプレイヤー業務が多すぎてマネジメントの時間がとれていない、という組織もあります。課題の把握を飛ばしてテーマを選ぶと、受講者には「いい話だが、うちの職場では無理」と受け取られます。
理由3:一人ずつ受講し、職場に戻ると孤立する
公開講座や部署横断の研修で、各部署から一人ずつ参加する形式は、他部署との交流という利点があります。一方で、学んだことを職場に持ち帰ったとき、周りに同じ考え方・同じ言葉を知っている人がいません。新しい会議の進め方や1on1のやり方を試そうとしても、同僚の管理職や部長から「なぜ急にやり方を変えるのか」と見られ、続けにくくなります。
管理職ごとにマネジメントのやり方がばらつく構造は「管理職ごとにマネジメントがバラバラになる理由」でも整理していますが、研修を一人ずつ受ける形は、このばらつきをむしろ固定してしまうことがあります。
理由4:上司(部長層)が研修の中身を知らない
課長が研修で学んだことを試すかどうかは、その上司である部長の反応に大きく左右されます。部長が研修の内容を知らず、従来どおりの指示や評価を続けていれば、課長にとって新しいやり方を試す理由は薄くなります。管理職研修は「受講者だけの研修」として企画されがちですが、実際には受講者の上司が、研修効果の鍵を握っていることが少なくありません。
理由5:効果測定が満足度アンケートで止まっている
受講直後の満足度や理解度のアンケートだけでは、職場での行動が変わったかどうかは分かりません。測っていないものは改善できず、翌年も同じ研修が繰り返されます。研修の効果を何で測るかは「人材育成KPIの設定方法」で詳しく扱っていますが、管理職研修ではとくに「行動」の変化を測る仕組みが抜けやすい点に注意が必要です。
管理職研修を現場で活かすための人事の4つの打ち手
5つの理由に共通するのは、研修を「個人がスキルを身につける場」としてだけ設計していることです。管理職のマネジメントは、職場や組織の仕組みの中で行われます。だからこそ、研修も職場・組織とセットで設計する必要があります。
打ち手1:テーマを「現場の課題」から逆算して決める
研修テーマを選ぶ前に、管理職の現状を把握します。方法は大がかりでなくて構いません。たとえば次のような問いを、管理職本人と、その上司・部下の双方に投げかけてみます。
- マネジメントの時間(部下との対話・育成・チームの方針づくり)は、週にどのくらい取れているか
- 管理職として一番迷っている判断はどんな場面か
- 部下から見て、上司に「もっとこうしてほしい」と思うことは何か
- 部長から見て、課長に任せきれていない仕事は何か
そのうえで「研修後、どんな行動が増えていれば成功か」を1〜3個の具体的な行動で書き出します。ここが決まると、テーマ選びも研修会社への依頼内容もぶれにくくなります。
打ち手2:同じ組織の管理職で「まとめて」学ぶ
理由3の「職場に戻ると孤立する」を防ぐには、同じ部門・同じ階層の管理職がまとめて学ぶ形が有効です。同じ研修を受けた管理職同士は、「あの研修で言っていた〇〇」という共通言語で会話できるようになります。新しいやり方を試すときも、一人ではなく「みんなでやってみる」ことになるため、続けやすくなります。
筆者は研修会社に在籍していた頃、200名規模のマネージャー向け一斉研修や、部課長を巻き込んで「組織で動かすマネジメント」へ転換していく支援に関わってきました。個人のスキルアップを目的にした研修と、組織として同じ型を持つことを目的にした研修とでは、企画の段階から考えるべきことが大きく変わります。
打ち手3:部長層を巻き込み、研修後に「使う場」を決めておく
受講者の上司である部長層には、研修の前に「何のための研修か」「研修後に課長にどんな行動を期待しているか」を説明し、可能であれば研修の一部に参加してもらいます。あわせて、学んだことを使う場を職場の中にあらかじめ決めておきます。
- 研修で学んだ会議の進め方を、翌月の定例会議で試す
- 部長と課長の1on1で、研修で決めた行動計画の進み具合を話す
- 研修の1〜2か月後に、受講者同士で実践を振り返る短い場を設ける
筆者が以前に携わった、部課長を中心とした組織変革の研修では、まず部課長のさらに上にあたる役員・本部長のメンバーを巻き込みました。対話を重ねながら、組織としての青写真を彼ら自身の言葉で紡ぎ、それを旗印にして、部課長に組織変革のプロジェクトに取り組んでもらいました。部課長も組織の一員である以上、上位の方針に沿って動きたいという力が働きます。上位の方々の言うことがバラバラでは、進むべき方向が見えず、自分がどこまで動いてよいかにも迷いが生じます。その迷いを、共通の青写真が支えてくれました。
さらに、部課長が自分の力だけでなんとかしようとするのではなく、部下の中から組織を動かせるメンバーをプロジェクトに加え、現場を動かしていける人も仲間にして実行していきました。孤立しがちな組織変革のプロジェクトを、上も下も巻き込んで進めたことが、実効性を高めることにつながったと感じています。
部長と課長の対話の場として1on1を使う場合は、制度が形だけになっていないかも確認しておきましょう(参考:「1on1が形骸化する理由と人事の打ち手」)。
打ち手4:「行動の変化」で効果を測る
打ち手1で決めた「増えてほしい行動」を、研修の前と後で確認します。本人の自己評価だけでなく、部下や上司から見た変化も聞くと、実態に近づきます。たとえば「部下と1対1で話す時間を定期的に取っているか」「会議で部下に意見を求めているか」といった、観察できる行動に落とした質問にすると、回答のぶれも小さくなります。
行動の変化を数か月単位で追い、その結果をもとに翌年の研修テーマや形式を見直す。このサイクルが回り始めると、管理職研修は「毎年の行事」から「組織のマネジメントを育てる仕組み」に変わっていきます。
管理職研修の効果を高める企画の進め方
4つの打ち手を、企画から振り返りまでの流れに並べると次のようになります。
- 現状把握:管理職・上司・部下への簡単なヒアリングやアンケートで、課題を言葉にする
- ゴール設定:研修後に増えてほしい行動を1〜3個に絞る
- 形式の決定:誰と誰が一緒に受けるか(部門単位・階層単位)を決める
- 部長層への説明:研修の目的と期待する行動を共有し、研修後の「使う場」を決める
- 研修の実施:最後に一人ひとりが職場で試す行動を決めて終える
- フォローと測定:1〜3か月後に実践を振り返り、行動の変化を確認する
評価者研修のように特定の役割に絞った研修でも、考え方は同じです。設計の具体例は「評価者研修の内容と進め方」も参考にしてください。
管理職研修の効果に関するよくある質問
Q. 経営から「研修の効果を数字で示してほしい」と言われたら?
業績への影響をいきなり数字で示すのは難しいため、まずは「行動の変化」を数字で示すのが現実的です。研修前後で、決めた行動の実施状況を本人・上司・部下に聞き、変化の割合を報告します。あわせて、研修の企画段階で「何が変わっていれば成功か」を経営と合意しておくと、後から説明を求められたときに慌てずに済みます。
Q. 現場から「忙しくて研修に出られない」と言われたら?
管理職が忙しすぎること自体が、組織の課題であることが少なくありません。研修の時間を削るより、研修の中で「自分の業務のうち、部下に任せられるもの」を整理するなど、忙しさそのものを扱う内容にする方法もあります。また、部長層から研修の意味を伝えてもらうと、参加の優先度が上がりやすくなります。
Q. 公開講座と社内研修は、どちらがよいのか?
目的によります。他社の管理職と交流して視野を広げたいなら公開講座が向いています。一方、社内のマネジメントのやり方をそろえたい、職場で学びを使ってほしいという目的なら、同じ組織の管理職がまとめて受ける社内研修のほうが効果につながりやすいでしょう。両方を組み合わせる企業もあります。
Q. 研修会社に依頼するとき、何を伝えればよいか?
「管理職研修をお願いしたい」だけでは、一般的なプログラムの提案になりがちです。自社の管理職の現状、研修後に増えてほしい行動、受講者の範囲、部長層の関わり方、研修後のフォローの有無を伝えると、提案の質が大きく変わります。打ち手1で整理した内容が、そのまま依頼内容になります。
まとめ:管理職研修の効果は「研修の外側」の設計で決まる
管理職研修の効果が出ないとき、見直すべきはプログラムの中身だけではありません。現場の課題からテーマを逆算すること、同じ組織の管理職がまとめて学び共通言語をつくること、部長層を巻き込んで学びを使う場を決めること、そして行動の変化で効果を測ること。研修を職場・組織とセットで設計することで、管理職研修は現場を変える施策になっていきます。
あわせて読みたい
- 管理職ごとにマネジメントがバラバラになる理由|「上司ガチャ」を仕組みで減らす方法
- 研修効果が出ない本当の原因と解決策|「やりっぱなし研修」から脱却した組織がやったこと
- 人材育成KPIの設定方法|研修時間・受講率だけでは経営に届かない理由
研修の前に、自社の管理職の「いま」を整理する
管理職研修のテーマを現場の課題から逆算するには、まず管理職のマネジメントの状態を同じ枠組みで見ることが出発点になります。「5つの箱」チェックシートは、管理職ごとのやり方の違いを整理し、研修で何をそろえるべきかを考えるための資料です。
管理職研修の企画書・稟議書を、問いに答えながらつくる
人材育成担当者のための無料ツール「SODATE」で、研修の目的や期待する行動変化を整理しながら、稟議書や実施効果報告書の形にまとめられます。登録不要・無料。書いた内容は、お使いのブラウザの中だけに保存されます。


