越境学習が「現場に戻ると元通り」になる理由|個人の学びをチームの力に変える方法

社外のプロジェクトや他社への出向、NPO・地域活動への参加などを通じて、いつもの職場を離れて学ぶ「越境学習」に取り組む企業が増えています。視野が広がる、当事者意識が高まるといった効果が期待される一方で、人事・組織開発の担当者からよく聞かれるのが「本人は変わったが、現場に戻ったら元通りになった」という声です。

なぜ、せっかくの学びは職場に戻ると薄れてしまうのか。本記事では、越境学習が「個人の変化」で止まってしまう構造を3つの視点で整理し、その学びを「チームの力」に変えるための打ち手を提案します。

越境学習は「必要性は高いが、成果が見えにくい」

越境学習とは何か

越境学習とは、所属する組織や職場の「境界」をあえて越え、普段とは異なる環境に身を置いて学ぶことを指します。他社との協働プロジェクト、副業・兼業、NPOや地域活動への参加などが代表例です。この分野の研究で知られる法政大学の石山恒貴氏らの整理では、慣れた環境を離れて葛藤を経験し、それを振り返ることで物事の捉え方が変わっていくプロセスにこそ価値があるとされています。

「学びの必要性」と「現場での実感」のギャップ

一方で、学び全般に共通する課題として「必要性は感じるが、成果につながっている実感がない」というギャップがあります。リスキリングに関するHR総研の調査でも、必要性を感じる企業が7割程度にのぼるのに対し、実際に取り組めている企業は3割前後にとどまるという結果が示されています。越境学習も同じ構図で、「行かせたが、その後どうなったかは分からない」という状態になりがちです。

なぜ個人の学びは現場に戻ると消えるのか

理由1:学びが言語化されないまま持ち帰られる

越境で得られるものの多くは、具体的なスキルではなく「物事の見方」「人との関わり方」といった、言葉にしづらい変化です。本人の中に感覚として残っても、他人に説明できる形になっていなければ、日常業務に押し流されて徐々に薄れていきます。越境学習では、戻ってきた後に振り返りと対話を通じて学びを言語化するプロセスが欠かせない、と指摘されています。

理由2:周囲の見方が変わっていない

越境から戻った本人が「もっとこう変えたい」と考えても、周囲のメンバーや上司は以前のままの前提で仕事をしています。新しい視点は「意識が高いだけ」「うちには合わない」と受け止められ、本人が孤立してしまう。越境学習は、外で学んでいるときよりも戻ってきてからの葛藤のほうが深くなることがある、とも言われます。学びを受け取る側の準備がなければ、変化は定着しません。

理由3:越境するのが「一人」だと支えがない

多くの企業では、越境学習の対象は選抜された一人、または少人数です。戻ったときに同じ経験を共有できる仲間が社内にいないと、体験を語り合うことも、互いに背中を押し合うこともできません。個人の意欲だけで変化を続けるのは、想像以上に消耗します。

個人の越境を「チームの学び」に変える3つの打ち手

打ち手1:戻った直後に「言語化の場」をセットする

越境から戻ったら、1〜2週間以内に、本人が経験を言葉にして共有する場を用意します。「何に驚いたか」「自分の当たり前がどう揺らいだか」「現場で試したいことは何か」を、チームで問いかけながら引き出す。一方的な報告会ではなく、対話の場として設計するのがポイントです。

打ち手2:できれば「二人以上」で送り出す

同じ越境先に複数名で参加する、または時期をずらして複数名を送り出すことで、社内に「あの経験を分かり合える人」が生まれます。戻った後に感想を交わし、施策を一緒に進める相手がいるだけで、変化の持続力は大きく変わります。

打ち手3:チーム全体で「共通の学びの機会」を持つ

越境の効果を組織に広げる近道は、一人を遠くへ送ることだけに頼らず、チーム全員が同じ学びの機会を持つことです。全員が同じ言葉・同じ考え方の枠組みを共有していれば、越境者の気づきも「うちのチームの言葉」に翻訳しやすくなります。異業種のメンバーと交わるワークショップのような場を、チーム単位で継続的に持つ方法もあります。関連して、職場の共通言語をつくる問題解決フレームワークの考え方も参考になります。

事例:チームで「越境」した庄原フィールドワーク

aund自身も、広島県庄原市で地域の企業の方々が「チーム庄原」としてそろって参加する2日間のフィールドワークを実施しました。普段の職場を離れて地域のキープレイヤーと対話し、課題を捉え直してアイデアを形にするまでを、チームで一緒に体験する設計です。1日目に現地で見聞きしたことを、2日目に課題の再構造化・アイデアの発散と収束というかたちで言語化し、最終日には具体的な構想を発表するところまで進みました(実施レポート)。個人ではなくチームで越境し、その場で学びを言葉にしていくと、持ち帰った後の実践につながりやすくなります。

まとめ:学びは「個人の中」ではなく「チームの間」に宿る

越境学習が現場に戻ると元通りになるのは、本人のやる気の問題ではなく、学びを個人の中だけに閉じ込めてしまう構造の問題です。言語化の場をつくる、複数名で送り出す、チームで共通の学びを持つ——この3つで、一人の越境は「チームの変化」につながり始めます。研修や学びが現場で活きない理由や、社員が自ら学ばない背景とあわせて、育成の設計を見直す視点にしてみてください。


一人の学びを、チームの共通言語にするために

aundの定額制ビジネススキル研修は、同じチームのメンバーがそろって学ぶ設計です。共通の型と言葉がチームに残るので、外で得た気づきも現場の実践につなげやすくなります。

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この記事を書いた人

栗林 陽

栗林 陽(くりばやし よう)

株式会社aund 代表取締役 / 会議カルチャー改革ファシリテーター

新卒で東芝ソリューション(現・東芝)にて営業・PJ支援を経験後、ジェイテックスマネジメントセンター(現学研グループ)で企業研修の企画・販売に従事。新規事業部門でSaaSプロダクトマネージャーを経て、学研ホールディングス人事戦略室に出向し研修0→1立上げ・人材育成領域を担当。2019年、株式会社aund設立。会議ファシリテーション・組織開発・ワークショップ設計を強みに、現場に根づく変革を支援する。

学びの系譜
  • 2017年|社会起業大学 修了
  • 2019年|慶應MCC 組織開発実践講座 修了
  • 2022年|東京デザインプレックス研究所 UIUX講座 修了
  • 2026年|AI経営寄付講座 受講
  • 2026年|青山学院大学 ワークショップデザイン講座 修了
アドバイザリー実績
  • 2025年6月〜2026年3月|株式会社IKUSA 研修事業アドバイザリー
  • 2026年4月〜現在|株式会社東京チェンソーズ 研修事業アドバイザリー
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