組織レジリエンスを高めるのは管理職|農耕から狩猟へ、マネジメントの転換点
予測不能な変化が常態化するなかで、「レジリエンス(resilience:回復力・適応力)」を経営の重要テーマに掲げる企業が増えています。ただし、レジリエンス強化を「個人のストレス耐性を鍛える研修」に矮小化してしまうと、組織全体の変化対応力にはつながりません。本記事では、組織レジリエンスがなぜ今求められているのか、そしてその実装を現場で担うのが管理職(課長・部長)である理由を、人類の進化という視点も交えながら整理します。
なぜ今、組織にレジリエンスが求められるのか
「安定運営」が通用しなくなった時代背景
市場の変化速度、人材の流動化、技術革新のスピードはこの数年で大きく上がりました。年度初めに立てた計画を年度末まで一切変えずに運用できる組織はほとんど存在しません。こうした状況下では、変化を前提に「揺れながらも立て直す力」=組織レジリエンスそのものが競争力の一部になります。
農耕民族的な組織が、個人に無理を強いている理由
ホモ・サピエンス20万年、農耕を始めてまだ1万年
人類がホモ・サピエンスとして誕生してから、約20万年が経つと言われています。そのうち、農耕を始めて定住生活を営むようになったのは、わずか1万年前からに過ぎません。人類の歴史の実に95%以上は、獲物や環境の変化に応じて居場所や行動を柔軟に変えながら生きる、狩猟採集民族としての時間だったことになります。
心と体は、まだ「農耕」に追いついていない
ポジティブ心理学の権威であるマーティン・セリグマンをはじめ、多くの研究者が指摘するのは、人間の心や脳の働きは、この20万年におよぶ狩猟採集生活の中でかたちづくられてきたものであり、わずか1万年の農耕・定住生活、そしてさらに歴史の浅い「会社組織」というあり方には、個人の進化がまだ十分に追いついていないという点です。決められた場所で、決められた手順を、毎年同じように繰り返す——こうした農耕民族的な働き方を組織が個人に一律に強いるほど、無意識のストレスや負担が個人の内側に蓄積しやすくなります。一方で、環境の変化を察知し、試行錯誤しながら軌道修正する力=レジリエンスは、人間が本来持つ狩猟採集的な適応力に近く、トレーニングによって後天的に取り戻せる力でもあります。
「農耕民族型組織」から「狩猟民族型組織」への転換
この進化のスピードのズレを踏まえたうえで、組織運営のスタイルを改めて捉え直してみます。
農耕民族的な組織運営の特徴と限界
日本企業の多くは、決められた土地を毎年同じように耕し、収穫を安定させる「農耕民族型」の組織運営を得意としてきました。年度計画への忠実な実行、前例踏襲、失敗を避ける稟議文化は、環境が緩やかに変化する時代には強みでした。しかし、環境そのものが読めなくなった今、そしてこのスタイルが人類本来の適応様式とズレていることを踏まえると、この運営スタイルは「変化への対応が遅れる」だけでなく「個人に負担を強いる」という二重の弱点を抱えていると言えます。
狩猟民族的な組織運営が持つ強さ
一方、獲物の動きに合わせて居場所や戦略を柔軟に変える「狩猟民族型」の発想は、状況を素早く読み取り、小さな試行を繰り返しながら軌道修正していく力に長けています。失敗を「次の獲物を見つけるための情報」として扱う姿勢は、レジリエンスの高い組織に共通する行動様式そのものです。
どちらが正しいかではなく「使い分け」が必要
重要なのは、農耕民族的な安定運用をすべて否定することではありません。安定して回すべき業務は農耕的に、環境変化への対応が求められる場面では狩猟的に——この使い分けを組織の中に持てるかどうかが、レジリエンスの本質です。そして、その使い分けを日々の意思決定の中で実践する立場にいるのが、現場に最も近いマネジメント層です。
この転換を担うのはミドルマネジメント(課長・部長)である
トップの戦略と現場をつなぐのは管理職
経営層がどれだけ「レジリエンス経営」「変化対応力の強化」を掲げても、それを日々のチーム運営に落とし込むのは課長・部長といったミドルマネジメントです。戦略と現場のあいだをつなぐ翻訳者であり、実質的に組織文化をつくっているのはこの層だと言えます。
管理職自身のマインドセットが変わらなければ、現場は変わらない
課長・部長自身が「前例踏襲・失敗回避」という農耕民族的なマネジメントスタイルに留まっている限り、部下に対しても無意識のうちに同じスタイルを再生産してしまいます。逆に言えば、管理職が「小さく試し、素早く学び直す」狩猟民族的な意思決定を体現できれば、その姿勢はチームに波及します。組織レジリエンスの強化とは、突き詰めると管理職一人ひとりのマネジメント観のアップデートに行き着く問題なのです。
来年度に向けてマネジメント変革を企画するのであれば、管理職研修を「知識のインプット」で終わらせず、日々の意思決定スタイルそのものを見直す機会として設計することが、組織レジリエンスを高める最短ルートになります。


