OJTが機能しない3つの理由|育成を「個人任せ」にしない組織設計
「OJTを導入しているのに、なぜか若手が育たない」「指導担当者がいるはずなのに、新入社員が孤立している」——人事担当者からこうした声を聞く機会は少なくありません。厚生労働省の能力開発基本調査によれば、能力開発・人材育成に「問題がある」と回答した事業所は76.4%にのぼります。その多くが、OJTが思うように機能していないことを課題に挙げています。
OJTは日本企業に広く普及した育成手法ですが、「導入している」と「機能している」は別物です。この記事では、OJTが機能しない3つの構造的な理由と、人事担当者が取れる具体的なアクションを整理します。
OJTが機能しない3つの構造的な理由
① 「教える人」自身が育っていない
OJTの成否は、担当者(トレーナー)の質に大きく依存します。しかし多くの企業では、「業務ができる先輩社員」をそのままトレーナーに任命し、「どう教えるか」を教えることはしません。業務遂行能力と指導力は、まったく別のスキルです。「なぜ自分はこの判断をするのか」を言語化できない人材には、後継者への教育は難しい。トレーナー自身への投資なしに、OJTは機能しません。
② 育成が「個人の善意」に依存している
OJTが形骸化する最大の原因は、育成が「仕組み」ではなく「人の善意」で成り立っていることです。忙しいトレーナーが育成を後回しにするのは、怠慢ではなく構造の問題です。指導の時間が確保されているか、達成目標が明確か、進捗を確認する機会があるか——これらが整備されていなければ、善意ある担当者でも育成は滞ります。人事が「仕組み」として設計する責任を持たなければ、OJTは属人的なバラつきを生み続けます。
③ 育成の進捗が組織全体で「見えていない」
OJTが「担当者と新人の二者関係」に閉じてしまうと、育成の質は完全に属人化します。チームや部門として「今この人はどこまで成長したか」が見えなければ、フォローも評価もできません。問題が表面化するのは、たいてい「辞表が出た後」です。育成の進捗をチーム全体で把握し、複数の目で関わる構造がなければ、OJTは「名ばかり制度」になりかねません。
OJTが機能しない組織で起きていること
成長実感を持てない若手社員は、早期に離職します。パーソル総合研究所の調査によれば、成長実感は継続就業意向と強く相関しており、育成体制への投資が定着率を5〜10%改善するというデータもあります。採用・教育にかけたコストが回収される前に人材が抜けていく——この「負のスパイラル」は、多くの場合OJTの構造的な機能不全から始まっています。
中小企業庁の調査では、中小企業における新卒採用後3年間の離職率は4割を超えています。この数字の背景に、OJTの形骸化が深く関係していることは、現場の人事担当者であれば実感しているはずです。
個人任せから「チームで育てる」設計へ
OJTを機能させるために、人事担当者ができることは3つあります。
- トレーナーを育てる:指導担当者向けに「教え方の基本」を研修として提供する。業務知識の伝達だけでなく、「言語化する力」「問いかけるスキル」を身につけさせることが出発点です。
- 仕組みとして設計する:週1回の振り返り面談、3ヶ月ごとの成長確認、達成目標の可視化など、個人の善意に頼らない育成の構造を整える。人事が設計責任を持つことが重要です。
- チーム全体で関わる:担当者一人に任せず、チームとして新人の育成に複数の目で関与する文化をつくる。「みんなで育てる」が当たり前になると、組織全体の学習風土が変わっていきます。
まとめ:OJTの問題は「制度」ではなく「設計」にある
OJTが機能しない根本には、「担当者の善意頼み」「育成の見える化不足」「トレーナー自身への投資のなさ」という3つの構造問題があります。制度としてOJTを導入することより、それを機能させる仕組みを設計することこそが、人事担当者に求められる本質的な役割です。
若手の定着率を上げたいなら、まず育成の「仕組み」と「文化」を見直すことが出発点です。個人任せの育成から、チームで学び合う組織へ——その転換が、長期的な組織力の向上につながります。



