研修の内製化が失敗する理由|人事が先に決める4つの設計

「外部研修の費用を抑えたい」「自社に合った内容で教えたい」。そんな理由から、研修の内製化を検討・推進している人事・人材育成担当者は少なくありません。一方で、内製化を決めたものの教材づくりが進まない、社内講師によって中身がばらつく、1年目はできたが2年目以降が続かない、といった悩みもよく聞かれます。

筆者は研修会社で企画・営業を経験したあと、グループ本社の人事で内製研修を0から立ち上げました。研修を「売る側」と「買う側」の両方を経験して感じるのは、内製化の成否は講師の話のうまさよりも、その手前の「設計」でほぼ決まるということです。この記事では、研修の内製化が失敗する理由を構造から整理し、人事が最初に決めておきたい4つの設計と、内製化の効果を高める「チームで学ぶ」考え方を紹介します。

研修の内製化でよくある「つまずき」

研修の内製化を進めた企業で、よく起きるつまずきは次のようなものです。

  • 人事が通常業務と兼任で時間がとれず、教材が完成しないまま実施時期が過ぎる
  • 講師役の社員によって、内容も質も大きく変わってしまう
  • 受講後アンケートの満足度は高いのに、現場の行動が変わらない
  • 立ち上げた担当者が異動すると、ノウハウごと研修が消える

これらは担当者の努力不足というより、内製化の「始め方」に原因があることが多いものです。まずは、なぜこうしたことが起きるのかを4つの理由に分けて見ていきます。

研修の内製化が失敗する4つの理由

理由1:目的が「外注費の削減」だけになっている

外部研修の費用は請求書で見えますが、社内の工数は見えにくいものです。企画、教材づくり、社内講師の準備、日程調整、当日の運営、効果測定までを合わせると、社内でかかる時間は想像以上に大きくなります。結果として、外注していたときより総コストが増えることもあります。

目的が「費用削減」だけだと、工数が膨らんだ時点でそれがそのまま「やめる理由」になります。内製化の目的は、「自社の言葉と事例で教えられる」「教える側の社員も育つ」「毎年改善しながら続けられる」といった、外注では得にくい価値に置くほうが、施策として長続きします。

理由2:何を内製し、何を外部に任せるかの線引きがない

「内製化する」と決めると、すべてを社内でまかなおうとしがちです。しかし、自社の理念や業務の進め方のように社内の人が教えるほうが良い内容もあれば、汎用スキルの理論や新しい専門知識、社外の視点のように外部の専門家が強い内容もあります。線引きがないまま進めると、社内に知見のない領域まで抱え込み、準備の負担が増えるうえに質も下がります。

理由3:品質が「講師個人の力量」に依存している

社内講師を任されるのは、たいてい本業でも頼りにされている社員です。話がうまい人もいれば、実務は一流でも教えるのは初めてという人もいます。時間割や「研修が終わったときに受講者がどうなっていればよいか」が共有されていないと、クラスごと・年度ごとに中身が変わり、人事も何を基準に改善すればよいか分からなくなります。

理由4:研修が単発のイベントで終わっている

受講者が一人で学び、職場に戻ったとき、上司や同僚はその研修で使った言葉や考え方を知りません。これでは「研修では分かったのに、職場では使えない」状態になります。この問題は、内製でも外注でも変わりません。研修の中身を自社向けにしても、職場との接続を設計しなければ学びは消えていきます。詳しくは「新入社員研修が現場で活かせない理由」や「研修効果が出ない本当の原因と解決策」でも整理しています。

研修内製化の進め方|人事が先に決める4つの設計

ここからは、上の4つの理由に対応して、人事が研修を内製化する前に決めておきたい設計を紹介します。

設計1:内製と外部の「線引き表」をつくる

最初に、研修の中身を「内製に向くもの」と「外部を活用したほうがよいもの」に分けます。目安は次のとおりです。

観点内製に向く外部を活用したほうがよい
内容理念・行動指針、自社の業務手順、自社のマネジメント方針汎用スキルの理論、新しい専門知識、社外の視点
講師自社の実務と事例を語れる社員理論の裏付けと多くの企業での実践経験をもつ専門家
時期型ができたあとの2年目以降立ち上げ期、型をつくる段階

「全部内製」か「全部外注」かの二択にしないことがポイントです。たとえば初年度は外部と一緒に設計・実施し、型ができたパートから社内講師に移していく、という段階的な内製化も現実的な選択肢です。外部パートナーの選び方は「研修会社の選び方|新入社員研修の提案依頼書と比較5つの観点」も参考にしてください。

設計2:レッスンプランと講師勉強会で品質の「物差し」をつくる

講師による品質のばらつきを抑えるには、レッスンプランが有効です。筆者が20クラス並行のビジネス基礎研修をプロデュースした際は、講師の選定とレッスンプランを必須にしました。最低限の時間割、各時間で行ってほしいこと、受講者がどんな状態になっていればOKかを事前に決め、それをもとに講師との勉強会を行いました。

レッスンプランは講師のためだけのものではありません。運営する人事にとっても、どのクラスがどこまで進んでいるか、運営がどこまで関与すべきか、遅れているクラスや進みすぎたクラスにどう対応するかを判断する物差しになります。社内講師の場合も同じで、最低限次の項目をそろえておくと、講師が替わっても研修の骨格が残ります。

  • 時間割(パートごとの所要時間)
  • 各パートのねらいと、講師にやってほしいこと
  • 研修終了時に、受講者がどんな状態になっていればOKか
  • 講師の裁量に任せる部分(自分の経験談を入れてよい箇所など)

設計3:社内講師は「肩書」ではなく3つの観点で選ぶ

筆者が研修を買う側として講師を選んでいたときに重視していたのは、次の3つでした。

  1. テーマへの想いがあるか:受講者は人なので、講師の熱量や想いに共鳴して研修に入り込みます
  2. 理論の裏付けがあるか:自分の経験だけだと、受講者が再現できません
  3. 受講者と同じ目線で伝えられるか:現場経験やたとえ話を使って、柔軟に伝えられるかどうか

これは社内講師にもそのまま当てはまります。役職が高い、業績が良いという理由だけで選ぶと、自分の成功体験を語るだけの研修になりやすくなります。社内講師の強みは3つ目の「同じ目線」です。足りない理論の部分は、外部の研修や書籍、レッスンプランで補えば十分です。

あわせて、講師を引き受けることが本人の評価や育成計画にどう位置づくのかを、上司も含めて事前に決めておくと、「本業に支障が出る」という理由で講師が辞退するのを防ぎやすくなります。

設計4:「広がっているか」を見る先行指標を決めておく

内製研修は、立ち上げたあと社内に広がるかどうかが勝負です。筆者がグループ本社の人事で内製研修を立ち上げた際は、初回の設計時にイノベーターやアーリーアダプターにあたる人を呼んで意見を聞きました。そのうえで、グループ全体の対象者数に対して参加者がキャズムの16%を超えるかを先行指標にしました。超えればある程度広がる可能性が高く、超えなければ広がりにくい、という見立てです。

16%に届かせるために行ったのは、アンケートの声を次の参加者を呼ぶ材料に活かす、口コミしてくれそうな人に声をかける、定期的なメルマガで発信する、といった地道な取り組みです。この考え方が使えるのは主に新しく立ち上げる研修や手挙げ(公募型)の研修ですが、「受講者数」や「満足度」だけで終わらせない指標の置き方は、指名型の研修でも参考になります。指標の考え方は「人材育成KPIの設定方法」で詳しく解説しています。

研修内製化の効果を高める「チームで学ぶ」設計

4つの設計で「研修を回す仕組み」はできます。最後に考えたいのは、理由4で挙げた「職場に戻ると学びが消える」問題です。ここで効いてくるのが、個人ではなくチーム単位で学ぶという考え方です。

たとえば、同じ職場から複数人で受講する、受講者の上司も同じ枠組みを学ぶ、研修で使った言葉を職場の会議や1on1でそのまま使う、といった工夫です。同じ言葉を知っている人が職場に複数いれば、研修の内容は「一人の知識」から「チームの共通言語」に変わり、日常の仕事の中で使われ続けます。

管理職研修であれば、マネジメントの基本の型を管理職全員でそろえることが、これにあたります。管理職ごとにやり方がばらばらになる構造については「管理職ごとにマネジメントがバラバラになる理由」で整理しています。外部で学んだ型を、社内講師が自社の言葉と事例に置き換えて職場ごとに広げていく。これは、内製化だからこそできる強みでもあります。

研修の内製化でよくある質問

Q. 経営から「内製化すればコストは下がるのか」と聞かれたら?

外注費は下がりますが、社内の工数は増えます。企画・教材づくり・講師の準備・運営・効果測定にかかる時間を見積もり、外注費と並べて示すのが誠実な答え方です。そのうえで、「自社の言葉で毎年改善しながら続けられる」「講師役の社員も育つ」といった、費用以外の価値をあわせて説明しましょう。

Q. 社内講師の上司から「本業に支障が出る」と言われたら?

講師を担う時間の上限(準備も含めて年間で何時間か)を先に示し、講師経験を本人の評価や育成計画の中に位置づけることを提案します。人前で教える経験は、資料づくりや説明力、部下育成にも生きるため、本人の成長機会として説明できると合意を得やすくなります。

Q. 現場から「外部講師のほうがよかった」と言われたら?

すべてを内製にこだわる必要はありません。線引き表に戻り、そのパートが本当に内製に向いているかを見直します。内製を続ける場合は、受講者の声を社内講師にフィードバックし、レッスンプランを改善する場を設けます。講師個人を責めるのではなく、仕組みで品質を上げる姿勢が大切です。

Q. 何から内製化を始めればよいですか?

自社固有の内容が多く、毎年繰り返し実施する研修から始めるのがおすすめです。たとえば新入社員研修の会社理解のパートや、管理職研修のうち自社の方針や制度を扱うパートなどです。汎用スキルの理論部分は外部に任せ、自社の事例で補うパートから社内講師に移していくと、無理なく進められます。

まとめ|研修の内製化は「教える仕組み」をつくる仕事

研修の内製化が失敗する背景には、目的がコスト削減だけになっている、内製と外部の線引きがない、品質が講師個人に依存している、研修が単発で終わっている、という4つの構造があります。人事が先に決めておきたいのは、線引き表、レッスンプランと講師勉強会、社内講師を選ぶ観点、そして広がりを見る先行指標の4つです。

そのうえで、受講者が職場に戻っても学びが続くよう、チーム単位で同じ言葉を持てる設計にすること。研修の内製化は、講師を社内で用意することではなく、「自社で教え、学び続ける仕組み」をつくる仕事だと捉えると、打つべき手が見えてきます。

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この記事を書いた人:栗林 陽(株式会社aund 代表取締役)
研修会社(現・学研グループ)に10年半在籍し、企業研修の企画営業、新規事業でのプロダクトオーナー、グループ本社人事での内製研修の立ち上げを経験。研修を「売る側」と「買う側」の両方を知る立場から、2025年に株式会社aundを設立。管理職・新入社員向けの研修設計と組織開発を支援している。

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この記事を書いた人

栗林 陽

栗林 陽(くりばやし よう)

株式会社aund 代表取締役 / 会議カルチャー改革ファシリテーター

新卒で東芝ソリューション(現・東芝)にて営業・PJ支援を経験後、ジェイテックスマネジメントセンター(現学研グループ)で企業研修の企画・販売に従事。新規事業部門でSaaSプロダクトマネージャーを経て、学研ホールディングス人事戦略室に出向し研修0→1立上げ・人材育成領域を担当。2019年、株式会社aund設立。会議ファシリテーション・組織開発・ワークショップ設計を強みに、現場に根づく変革を支援する。

学びの系譜
  • 2017年|社会起業大学 修了
  • 2019年|慶應MCC 組織開発実践講座 修了
  • 2022年|東京デザインプレックス研究所 UIUX講座 修了
  • 2026年|AI経営寄付講座 受講
  • 2026年|青山学院大学 ワークショップデザイン講座 修了
アドバイザリー実績
  • 2025年6月〜2026年3月|株式会社IKUSA 研修事業アドバイザリー
  • 2026年4月〜現在|株式会社東京チェンソーズ 研修事業アドバイザリー
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