研修会社の選び方|新入社員研修の提案依頼書と比較5つの観点

来年度の新入社員研修を外部に依頼するとき、人事担当者がまず悩むのが「どの研修会社に頼むか」です。比較サイトを見ると候補はいくらでも出てきますが、パンフレットと見積もりを並べても、どこが自社に合うのかはなかなか見えてきません。

この記事では、研修会社の選び方を「比べる前に決めること」「提案依頼書(RFP)の書き方」「提案を比較する5つの観点」の順に整理します。筆者は研修会社で企画営業として研修を「売る側」、グループ本社人事で内製研修を立ち上げる「買う側」の両方を経験してきました。その両面から、人事担当者がそのまま使える形でまとめます。

研修会社の選び方は「比べる前」でほぼ決まる

研修会社選びがうまくいかないとき、原因の多くは比較の仕方ではなく、依頼する側の準備にあります。「新入社員研修をお願いしたい。ビジネスマナーとロジカルシンキングを入れて、3日間くらいで」という依頼をすると、どの会社からも似たような標準カリキュラムと見積もりが返ってきます。違いは価格と講師のプロフィールくらいしかなく、結果として「一番安いところ」か「前年と同じところ」に決まりがちです。

売る側にいた経験から言うと、研修会社は依頼文に書かれた情報の範囲でしか提案できません。逆に、目的や現場の状況が具体的に伝われば、各社の考え方の違いが提案にはっきり表れます。研修会社を「選ぶ」作業は、自社が何を実現したいのかを言葉にする作業から始まります。

新入社員研修の研修会社に依頼する前に人事が決めておく3つのこと

1. 研修の目的と「配属後に見たい姿」

「社会人としての基礎を身につける」だけでは、どの研修会社の提案も正解に見えてしまいます。配属先の上司が「研修を受けた新人は、ここが違う」と言える状態を、行動の言葉で書き出しておきます。たとえば「指示を受けたら、目的と期限を自分から確認する」「わからないことを抱え込まず、途中で相談できる」といった具合です。現場の管理職に「今年の新人に、最初の3か月で何ができてほしいか」を聞いておくと、目的が具体的になります。

2. 対象者と前提条件

人数、職種の内訳、文系・理系の比率、内定者研修の有無、配属時期、集合かオンラインか、使える会場などを整理します。研修会社にとって、ここがわからないと講師の人数や運営体制を見積もれません。前年の研修のアンケートや、配属後に現場から出た声があれば、それも前提情報として渡せるよう準備しておきます。

3. 予算・スケジュール・決める人

予算の上限、選定の締め切り、最終的に誰が決裁するのかを決めておきます。予算を伏せて相見積もりを取ると、各社が想定する規模がばらばらになり、比較できなくなります。また、選定の途中で上長や経営層の意向が変わると、それまでの比較が無駄になります。新入社員研修の準備スケジュールは「来年度の新入社員研修はいつから準備する?」で整理しています。

研修会社への提案依頼書(RFP)の書き方と項目例

提案依頼書(RFP)は、複数の研修会社に同じ条件で提案してもらうための文書です。システム開発ではよく使われますが、研修の発注でもそのまま役立ちます。A4で2〜3枚程度で十分です。次の項目を順に埋めていきます。

  • 背景:なぜ今この研修を見直すのか(前年の課題、事業の変化、採用人数の変化など)
  • 研修の目的と配属後に見たい姿:前の章で書き出した行動の言葉
  • 対象者と前提条件:人数、職種、時期、形式、会場
  • 依頼範囲:企画・教材作成・講師・運営・事後フォロー・効果測定のどこまでを依頼するか
  • 提案してほしい内容:カリキュラム案、その設計の考え方、講師と運営体制、配属後のフォロー案、効果の確かめ方
  • 予算とスケジュール:予算上限、提案締め切り、選定時期、実施時期
  • 評価の観点:何を重視して選ぶか(次の章の5つの観点を参考に)

ポイントは「提案してほしい内容」に設計の考え方を入れることです。カリキュラム表だけを求めると、似た表が並ぶだけになります。「なぜこの順番なのか」「なぜこの時間配分なのか」を書いてもらうと、その会社が自社の課題をどう理解したかが見えてきます。

また、評価の観点をRFPに書いておくと、提案の質が上がるだけでなく、社内での選定理由の説明も楽になります。書いた内容は、そのまま企画書や稟議書の「選定理由」に流用できます。企画書の構成は「新入社員研修の企画書の書き方」を参考にしてください。

研修会社の提案を比較する5つの観点

観点1:課題を問い返してくるか

良い研修会社は、提案の前にヒアリングを求めてきます。「配属先の上司は新人に何を期待していますか」「前年の新人は、どこでつまずきましたか」と問い返してくる会社は、自社の課題から研修を組み立てようとしています。依頼内容をそのままカリキュラムに置き換えて返してくる会社とは、ここで差が出ます。

観点2:カスタマイズの範囲と、その理由

「カスタマイズ可能」はほぼすべての研修会社が掲げています。比べるべきは、どこまで変えられるか(事例の差し替えだけか、構成から組み直すか)と、なぜそこを変えるのかの説明です。全部を自社向けに作り直す必要はありません。標準プログラムの強みを活かしつつ、自社の課題に関わる部分を厚くする提案のほうが、品質も費用も安定しやすくなります。

観点3:講師と運営体制

まず、提案書に載っている講師が本当に登壇するのかを確認します。そのうえで講師を見るとき、筆者が買う側として大事にしてきたのは次の3つです。

  • テーマへの「想い」があるか:受講者も人なので、講師の熱量や想いに共鳴して研修に入り込んでいきます。
  • 理論の裏付けがあるか:理論がないと、再現性のある研修になりません。
  • 現場の経験やたとえ話で、受講者の目線に立って柔軟に伝えられるか:理論だけでは頭でっかちな研修になり、現場で活かせなくなります。

以前、経歴の立派な講師とご一緒したとき、「この経歴なら場を回してくれるだろう」と考えたことがあります。しかし実際には経歴や理論が前面に出て、現場の方々への落とし込みや、同じ目線に立った伝え方がされず、研修はうまくいきませんでした。それ以来、経歴や肩書きだけで判断せず、講師との事前面談や体験会で「伝え方」を確かめることを重視しています。

新入社員研修は人数が多く、クラスが分かれることも多いため、講師個人の力量だけでなく、全体を揃える仕組みがあるかも品質を左右します。筆者が20クラス並行のビジネス基礎研修をプロデュースしたときに必須にしていたのは、講師の選定と、レッスンプランの事前合意でした。最低限の時間割と、それぞれの時間で行ってほしいこと、受講者がどんな状態になっていればOKかを事前に決め、それをもとに講師との勉強会を行います。

ここまで決めておくと、運営担当にとっても物差しができます。どのクラスがどの程度進んでいるのか、運営がどこまで関与すべきか、遅れているクラスや進みすぎているクラスに当日や翌日どう対応するかを判断できるようになります。提案を受ける際は、レッスンプランや講師間のすり合わせの仕組みがあるか、当日の運営(出欠、資料、トラブル対応)を誰が担うのかを確認しましょう。

観点4:配属後の現場とのつなぎ方

研修の中身がどれだけ良くても、配属先で使われなければ効果は残りません。研修で使った考え方や言葉を、配属先の上司やOJTトレーナーにどう共有するのか、フォローアップの機会をどう設けるのかまで提案に含まれているかを見ます。この点は「新入社員研修が現場で活かせない理由」で詳しく書いています。

観点5:効果の確かめ方と振り返り

受講直後のアンケートだけで終わるのか、配属後の行動の変化まで確かめる方法を一緒に考えてくれるのかを確認します。研修後に報告会を設け、次年度の改善点まで提案してくれる会社であれば、毎年の研修が少しずつ良くなっていきます。指標の考え方は「人材育成KPIの設定方法」も参考になります。

料金については、受講者数に応じた単価型、クラスや講師単位の型、定額型などがあり、単純な総額比較はできません。RFPで条件を揃えたうえで、「見積もりに何が含まれているか(教材・事前打ち合わせ・事後報告など)」を項目ごとに確認すると、比較しやすくなります。

研修会社選びで失敗しやすい3つのパターン

知名度と価格だけで決める。大手であることや安さは安心材料になりますが、自社の課題との相性を保証するものではありません。5つの観点で並べたうえで、価格は最後に見るくらいがちょうどよい順番です。

人事だけで決めて、現場が知らない。配属先の管理職が研修の中身を知らないと、研修で学んだことが現場で使われません。最終選考の提案説明に、現場の管理職に一人でも同席してもらうと、その後の協力が得やすくなります。

稟議の直前に初めて説明する。研修会社を決めてから上長や経営層に説明すると、「なぜこの会社なのか」で差し戻されることがあります。関わる人が同じ場で議論して決めることが前提です。そのうえで稟議の前に、目的や選定の観点を時間をかけて共有しておくと、当日の議論の質が上がります。根回しというより「相互理解の時間」と捉えるとよいでしょう。

研修会社の選び方についてよくある質問

Q. 上司から「何社比較したのか」と聞かれます。何社に声をかければよいですか?

RFPを渡して提案をもらうのは3社前後が現実的です。多すぎると比較に時間がかかり、ヒアリングにも十分に応じられなくなります。事前に情報収集で候補を絞り、「この観点で3社に絞り、提案を比較した」と説明できるようにしておくと、選定の経緯が伝わりやすくなります。

Q. 経理や経営から「一番安い会社ではない理由」を聞かれたら?

RFPに書いた評価の観点に沿って、各社の提案を表にまとめて示します。「配属後の現場とのつなぎ方が提案に含まれているのはこの会社だけだった」のように、目的に照らした違いを示すと納得を得やすくなります。見積もりの内訳(含まれている作業)を揃えて比べることも大切です。

Q. 外部に頼まず、社内で内製したほうがよいのでは?

全部を外部か内製かで考える必要はありません。自社の事業や仕事の進め方に関わる部分は社内講師、考え方の土台や体験型のプログラムは外部、のように組み合わせる方法もあります。RFPの「依頼範囲」を明確にしておくと、どこを社内で担うかの議論もしやすくなります。

Q. 研修会社の選定はいつ頃から始めればよいですか?

4月入社の新入社員研修であれば、予算編成の時期に合わせて秋頃から情報収集を始め、年内に候補を絞ると余裕を持って進められます。人数が多い場合や、内容を大きく見直す場合は、講師や会場の確保も考えて早めに動くのが安心です。

まとめ:研修会社の選び方は「自社の言葉」を持つことから

研修会社の選び方で大切なのは、比較表を作る前に、研修の目的と「配属後に見たい姿」を自社の言葉で書き出すことです。それをRFPにまとめて複数社に渡せば、提案の違いがはっきり見え、社内への説明もしやすくなります。比較するときは、価格の前に「課題を問い返してくるか」「カスタマイズの範囲と理由」「講師と運営体制」「配属後の現場とのつなぎ方」「効果の確かめ方」の5つを見てください。

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この記事を書いた人:栗林 陽(株式会社aund 代表取締役)
研修会社(現・学研グループ)に10年半在籍し、企業研修の企画営業、新規事業でのプロダクトオーナー、グループ本社人事での内製研修の立ち上げを経験。研修を「売る側」と「買う側」の両方を知る立場から、2025年に株式会社aundを設立。管理職・新入社員向けの研修設計と組織開発を支援している。

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この記事を書いた人

栗林 陽

栗林 陽(くりばやし よう)

株式会社aund 代表取締役 / 会議カルチャー改革ファシリテーター

新卒で東芝ソリューション(現・東芝)にて営業・PJ支援を経験後、ジェイテックスマネジメントセンター(現学研グループ)で企業研修の企画・販売に従事。新規事業部門でSaaSプロダクトマネージャーを経て、学研ホールディングス人事戦略室に出向し研修0→1立上げ・人材育成領域を担当。2019年、株式会社aund設立。会議ファシリテーション・組織開発・ワークショップ設計を強みに、現場に根づく変革を支援する。

学びの系譜
  • 2017年|社会起業大学 修了
  • 2019年|慶應MCC 組織開発実践講座 修了
  • 2022年|東京デザインプレックス研究所 UIUX講座 修了
  • 2026年|AI経営寄付講座 受講
  • 2026年|青山学院大学 ワークショップデザイン講座 修了
アドバイザリー実績
  • 2025年6月〜2026年3月|株式会社IKUSA 研修事業アドバイザリー
  • 2026年4月〜現在|株式会社東京チェンソーズ 研修事業アドバイザリー
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