KPTでチームを構造するレトロスペクティブ:犬と猫の地域包括ケアをめざして/12回目

「良いテーマがある、良い関係性がある、プロトタイプも見えてきた——でも、事業として前に進めるには何が足りないのか?」

2026年4月27日(月)10:00〜12:00、犬と猫の地域包括ケアをめざすデザインスプリントの第12回目を実施しました。今回のテーマは チームのKPT(Keep・Problem・Try)によるレトロスペクティブ。ここまでの11回を時系列で棚卸しし、感情の変化を言語化し、チームとして今後どこへ向かうかを構造的に整理した2時間です。

この記事では、実際に行ったKPTの内容と、そこから生まれた意思決定をお届けします。

KPTとは——「感想」を「構造」に変えるレトロスペクティブの手法

KPT(ケプト) は、アジャイル開発やチームマネジメントで広く使われるレトロスペクティブ(振り返り)フレームワークです。

  • Keep:続けるべきこと・うまくいっていること
  • Problem:問題・うまくいっていないこと・解決すべき課題
  • Try:次に試してみること・改善策

単なる感想共有に終わらせず、「何を継続し、何を変え、次に何を試すか」を明確にすることがKPTの目的です。スタートアップや新規事業チームでは、短いサイクルでKPTを回すことがプロジェクトを前に進める大きな力になります。

今回やったこと:棚卸しから始めるKPT

今回のKPTは、いきなり「何が良かったか」を問うのではなく、まず「何をしてきたか」を時系列で並べるところから始めました。ホワイトボードに付箋を貼りながら第1回からの流れを視覚化し、そのとき何を感じていたかを「感情の変化」として書き出しました。

デザインスプリント第12回KPTの付箋ボード全体写真
ホワイトボードに広がるKPTの全体像。上段が時系列の棚卸しと感情変化、下段がKeep・Problem・Try。

① 時系列の棚卸し——11回で何をしてきたか

ボードの上段に、プロジェクト開始から現在まで月ごとに付箋を並べました。俯瞰してみると、流れは大きく3フェーズに分かれていました。

フェーズ主な内容特徴
初期(10〜11月)初の顔合わせ・ロードマップ・方向づけ「何をやるか」より「どう始めるか」が中心
中盤(12月〜2月)課題設定・ユーザー理解・ストーリーボード・UIツール比較誰のどんな困りごとかを徹底的に掘り下げた
直近(3月〜4月)Stitch採用・プロトタイプ作成・「お気に入り」機能へのスコープ絞り込み「見えるもの・触れるもの」を実際に作る段階へ

今回のデザインスプリントでは、ストーリーボードで感情の変化を設計した第10回や、Google StitchでUIプロトタイプを作った第11回を経て、ようやく「触れるもの」が出揃った段階でした。だからこそ、このタイミングでのKPTには意味がありました。

② 感情の変化——チームが辿ってきた心理的な旅路

時系列の下には、そのときの「気持ち」を付箋で並べました。出てきた流れはこうでした。

初期:ワクワク・どうなる?・始まる期待感
中盤:何を始めればいいかわからない、実感が湧いて嬉しい、でも少し迷走、焦りもある
直近:何をどんなイメージで目指せばいいのか、ソーシャル面や学びは楽しい、マネタイズできるか不安、とりあえず作れる——でもその先は?

「期待 → 探索 → 手応え → 迷い → 具体化 → 収益不安」というこの推移は、新規事業チームが辿る典型的な感情の変化です。これは決して悪いことではなく、プロダクトを触れるところまで進めたからこそ、事業の問いが前面に出てきた証拠です。

KPTの結果——今回出た「Keep・Problem・Try」

Keep:続けたいこと・このチームの強み

Keepとして挙がったのは、大きく4つの塊でした。

  • テーマの社会性・広がり:認知症や介護・飼い主との対話・地域包括ケアとのつながり。このテーマそのものの切実さと可能性はチームの財産
  • チームの関係性:定期的な集まり、少人数での本音の対話、肯定的な雰囲気。仲間づくりの芽がすでにある
  • 積み上げてきた進め方:記録を残す・ロードマップを共有する・一歩ずつ進める。場当たりではなく、ちゃんと積み上げてきた
  • 形にしてきた実績:Webメディア・型づくり・事業として広がりそうな感覚。思考だけでなく、実際に作ってきたことが強み

Problem:まだ解決できていない課題

Problemは今回、3点に絞られました。

  1. アイデアがまだ抽象的:テーマも想いもあるが、「具体的に誰に・どの場面で・何を届け・何が起きるのか」がまだ粗い。"良さそう"はあるが"これだ"にはまだ至っていない
  2. ビジネスモデルが明確でない:お金の流れ・利益の出し方・継続性・収益構造の全体像が未整備。プロダクトの価値仮説はあるが、事業仮説がまだ弱い
  3. 前に進めるプロセスが未設計:どの順番で詰めるか・何を先に決めるか・仲間をどう巻き込むかが曖昧。良い問いは出ているが、運び方がまだ未整備

Try:次に試すこと

TryはProblemを受けて、明確な方向感が出ました。

  • まずビジネスモデルの仮説をつくる(関連する事業モデルのリサーチ)
  • 世の中にある類似ビジネスモデルを調べ、今回のプロジェクトに活かせる型を探す
  • マンパワーや作業設計を具体化する
  • コラボ・連携先の整理は、ビジネスモデルを定めてから行う

今回最大の意思決定:「仲間づくりより先に、ビジネスモデルを明確化する」

今回のKPTで最も大きかったのは、この意思決定です。

当初は「仲間を増やすにはどうするか」も論点のひとつでした。しかし棚卸しとKPTを経て、チームは気づきました——ビジネスモデルが曖昧なままでは、そもそも「誰に・何を・どんなメリットで」入ってほしいのかが定まらないのです。

つまり今回の結論は、仲間づくりを後ろ倒しにしたのではなく、仲間づくりの前提条件を整える判断でした。

良いテーマと良い関係性はある。プロトタイプも見えてきた。ただし、事業として前に進めるには、抽象アイデアを具体にし、ビジネスモデルを定め、進め方を設計する必要がある。

第12回セッション まとめ

次回に向けて——具体的なネクストステップ

今回のKPTから見えてきた次回のアジェンダは明確です。

  1. 世の中にある関連ビジネスモデルを調べる
  2. 今回のプロジェクトに活かせるビジネスモデルの型を探す
  3. 事業仮説(誰に・何を・どう届け・どう稼ぐか)をひとつ立てる
  4. その後で、必要な仲間・連携の設計へ進む

KPTをチームで実践するときのポイント

今回のセッションを通じて感じた、KPT・レトロスペクティブを効果的に行うためのポイントをまとめます。

  • いきなりKPTに入らない:まず「何をしてきたか」の事実確認(棚卸し)から始めると、KPTの精度が格段に上がる
  • 感情の変化も言語化する:事実だけでなく、そのとき何を感じていたかを出すことで、チームの本音と文脈が見えてくる
  • まず個人で書いてから共有する:付箋に個人で書き出してから全体共有するプロセスを守ることで、声の大きい人に引っ張られない場が作れる
  • 「感想」ではなく「構造」で整理する:プロダクト面とチーム面の2軸で整理すると、Problemが具体的になり、Tryに落ちやすくなる
  • Tryは「できること」まで落とす:「もっと頑張る」ではなく「次回までに〇〇を試す」という具体的な行動まで決めることがKPTの本質

なお、チームの知識を形式知化しながら蓄積していくプロセスについては、日本企業のDX危機と組織変革戦略の記事でSECIモデルの観点からも解説しています。KPTによるレトロスペクティブは、まさにSECIの「共同化→表出化」を意図的に設計する実践です。


チームの振り返りや会議改革でお困りの方へ

aundでは、KPTやレトロスペクティブを活用したチームビルディング・ファシリテーション支援を提供しています。「感想会で終わらない振り返り」「次につながるKPTの設計」「新規事業チームの進め方設計」など、現場に根ざした支援が可能です。

第11回:Google StitchでUIプロトタイプを作る ▶ 第10回:ストーリーボードで感情の変化を設計する

この記事を書いた人

栗林 陽

栗林 陽(くりばやし よう)

株式会社aund 代表取締役 / 会議カルチャー改革ファシリテーター

新卒で東芝ソリューション(現・東芝)にて営業・PJ支援を経験後、ジェイテックスマネジメントセンター(現TOASU)で企業研修の企画・販売に従事。新規事業部門でSaaSプロダクトマネージャーを経て、学研ホールディングス人事戦略室に出向し研修0→1立上げ・人材育成領域を担当。2019年、株式会社aund設立。会議ファシリテーション・組織開発・ワークショップ設計を強みに、現場に根づく変革を支援する。

学びの系譜
  • 2017年|社会起業大学 修了
  • 2019年|慶應MCC 組織開発実践講座 修了
  • 2022年|東京デザインプレックス研究所 UIUX講座 修了
  • 2026年|AI経営寄付講座 受講
  • 2026年〜|青山学院大学 ワークショップデザイン講座 在籍中
アドバイザリー実績
  • 2025年6月〜2026年3月|株式会社IKUSA 研修事業アドバイザリー
  • 2026年4月〜現在|株式会社東京チェンソーズ 研修事業アドバイザリー
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